潜在精巣(留睾症・隠睾症):犬と猫における病態、診断、および治療
Cryptorchidism
別称: Undescended testicles, Retained testicles
ポイント
潜在精巣(隠睾)は、片方または両方の精巣が陰嚢内に下降しない一般的な遺伝性疾患です。精巣腫瘍や生命を脅かす精巣捻転のリスクを高めるため、外科的摘出(去勢手術)が強く推奨されます。

潜在精巣
TL;DR. 潜在精巣は、片方または両方の精巣が陰嚢内に下降しない一般的な遺伝性疾患です。腫瘍化や精巣捻転などの深刻な合併症を防ぐため、外科的な摘出手術が強く推奨されます。

正常な発育過程では、精巣は腎臓の近くから陰嚢へと下降します。
潜在精巣とは
潜在精巣(隠睾・留睾症)は、雄の犬や猫において、性成熟に達しても片方または両方の精巣が陰嚢内に下降しない一般的な先天性生殖器異常です。正常な胎子期の発育において、精巣は腎臓の後極付近で形成されます。成長に伴い、導帯と呼ばれる特殊な靭帯が精巣を腹腔から鼠径管を通って引き下げ、最終的に陰嚢内へと導きます。
健康な子犬や子猫では、この精巣下降は通常生後6〜16週齢までに完了します。しかし、潜在精巣の動物ではこの移動プロセスが正常に機能しません。下降しなかった精巣は、腹腔内の腎臓付近、鼠径管内、あるいは鼠径部の皮下組織など、下降経路の途中で留まってしまいます。
この病態は単なる外見上の問題にとどまりません。腹腔内の温度は陰嚢内よりも著しく高いため、この持続的な熱への曝露によって正常な精子形成が阻害され、不妊や繁殖能力の低下を引き起こします。さらに重要な点として、体内に留まった精巣組織は、精巣腫瘍や、精巣への血流が遮断される極めて痛みの強い精巣捻転など、生命を脅かす合併症を引き起こすリスクが非常に高くなります。
原因とリスク要因
潜在精巣は主に遺伝性および先天性の異常であり、親から受け継いだ遺伝的要因によって発生します。遺伝的な形質であるため、この疾患を持つ動物を繁殖に用いるべきではありません。
この病態はすべての雄の犬や猫に発生する可能性がありますが、猫よりも犬で圧倒的に多く見られます。特定の犬種では遺伝的素因が強く認められており、例えばダックスフンドでは常染色体劣性遺伝として遺伝することが研究で示されています。また、大型犬と比較して、小型犬やトイ種で発生頻度が高いことが知られています。
注意すべきサイン
多くの場合、潜在精巣を持つ動物は初期には臨床症状を示しません。しかし、以下のような身体的・行動的サインに注意する必要があります。
- 陰嚢内に片方または両方の精巣が確認できない(主要徴候): 生後4〜6ヶ月齢までに、両方の精巣が陰嚢内で容易に触知できる必要があります。片方または両方が確認できない場合、潜在精巣が疑われます。
- 片側性の場合の繁殖能力低下(一般的): 片方の精巣のみが貯留している場合、下降しているもう一方の精巣は精子を産生できますが、全体的な繁殖能力は低下する傾向があります。
- 両側性の場合の不妊(一般的): 両方の精巣が体内に留まっている場合、体温の影響によって精子形成が完全に阻害され、不妊となります。
- 正常な性欲と二次性徴(一般的): 貯留した精巣は正常な精子を作ることができませんが、テストステロン(男性ホルモン)は分泌し続けます。そのため、マーキングやマウンティングといった雄特有の行動や身体的特徴はそのまま現れます。
- 前立腺肥大(時折見られる): テストステロンの持続的な刺激により、加齢に伴い前立腺肥大症のリスクが高まります。
- 精巣腫瘍(時折見られる): 貯留精巣は、セルトリ細胞腫やセミノーマ(胚細胞腫)などの腫瘍を発生するリスクが著しく高くなります。これにより、腹部膨満や皮膚の変化、あるいは雌性化症候群(エストロゲン過剰産生による乳頭の腫大や、他の雄犬を引き寄せる行動など)が引き起こされることがあります。
- 精巣捻転(時折見られる): 腹腔内の精巣が血管系を中心にねじれる、突然発症する生命を脅かす緊急事態です。激しい急性腹痛、嘔吐、虚脱、元気消失などを引き起こします。

陰嚢が空であることや、鼠径部にある小さな膨らみは、潜在精巣の代表的な身体検査所見です。
獣医師による診断方法
診断は、丁寧な身体検査と触診から始まります。貯留精巣が鼠径部(皮下組織)にある場合、通常の健康診断やワクチン接種時の触診で発見することができます。しかし、精巣が腹腔内の深部にある場合、触診だけで特定することは困難です。
腹腔内精巣の位置を特定するためのゴールドスタンダードとなる検査は、超音波検査(エコー検査)です。超音波検査により、腹腔内の構造を高精度に視覚化できます。小動物超音波検査の主要な教科書には以下のように記載されています。
「超音波検査は、犬の精巣および陰嚢疾患の診断において高い精度を誇る。潜在精巣は通常、小型で低エコーを呈するが、中央に高エコーの精巣縦隔を伴う正常な構造を維持している」

超音波検査は、腹腔内深部に貯留した精巣を特定するためのゴールドスタンダードとなる検査です。
保護された成犬や成猫などで去勢手術の履歴が不明であり、精巣が確認できない場合は、ホルモン測定検査が推奨されることがあります。ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)刺激試験では、注射の前後でテストステロン値を測定します。注射後にテストステロン値の上昇が認められれば、体内に活性のある精巣組織が存在している(去勢済ではなく潜在精巣である)ことが証明されます。
治療の選択肢
潜在精巣に対する確実かつ強く推奨される治療法は、両方の精巣を外科的に摘出する去勢手術(両側精巣去勢術)です。
この手術では、正常に下降している精巣と、体内に留まっている精巣の両方を摘出します。精巣が腹腔内にある場合、手術は通常の去勢手術よりも複雑になり、雌の避妊手術と同様に開腹手術が必要となります。執刀医は慎重に貯留精巣を特定し、血管を隔離して結紮する必要があります。標準的な獣医外科マニュアルには、この繊細な組織を処理する正確な手技が以下のように記載されています。
「精索を包む脂肪組織を精索から剥離し、近位側で2本のハルステッド蚊鉗子(モスキート鉗子)を精索にかけ挟む。近位側の鉗子を外しながら、その圧挫線上に吸収性縫合糸を用いて強固に結紮する」
一部の飼い主から、留まっている精巣を外科的に陰嚢内まで引き下げて固定できないか(精巣固定術)という質問が寄せられることがあります。しかし、獣医療においてこの処置は非倫理的であり、医学的にも禁忌とされています。主要な獣医内科学の文献には以下のように述べられています。
「精巣固定術もまた非倫理的とみなされている。人においては、かつて腹腔内にあった潜在精巣における腫瘍発生率の上昇は精巣固定術後も持続するため、獣医療の患者においてもこの処置は医学的に禁忌であり、倫理的にも許容されない」
精巣を陰嚢内に固定しても腫瘍化のリスクは低下せず、さらに遺伝的欠陥を持つ動物が繁殖やドッグショーに利用されるリスクが生じるため、獣医師のプロフェッショナル基準においてこの処置は厳しく禁止されています。
生後16週未満の非常に若い子犬の場合、自然な下降を促す目的でヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)やテストステロンなどのホルモン療法が検討されることもありますが、成功率は低く、推奨されることは稀です。また、繁殖用の犬に対して遺伝的欠陥を隠す目的でこれらの治療を行うことは決してあってはなりません。
予後
両方の精巣を外科的に摘出すれば、潜在精巣の長期的な予後は極めて良好です。手術を行うことで、精巣腫瘍や精巣捻転のリスクは完全に排除されます。術後10〜14日ほどで完全に回復し、その後は健康で活動的な通常の生涯を送ることができます。
手術を行わずに放置した場合、加齢に伴う腫瘍化のリスクや、突発的で生命を脅かす精巣捻転のリスクがあるため、予後は慎重(要警戒)となります。
予防
潜在精巣は先天性および遺伝性の異常であるため、生活習慣の改善、食事、環境調整などによって個体の発症を予防することはできません。
唯一の有効な予防策は、遺伝的な管理です。ブリーダーは、潜在精巣を持つ犬や猫を繁殖ラインから除外しなければなりません。この遺伝子は、雌や発症していない雄によって隠れて伝達されることが多いため(特に常染色体劣性遺伝をとるダックスフンドなど)、発症した個体の近親交配や血統についても繁殖前に慎重に評価する必要があります。
獣医師に相談すべきタイミング
雄の子犬や子猫が生後16週齢を過ぎても、陰嚢内に2つの精巣がはっきりと触知できない場合は、獣医師の診察を受けてください。
愛玩動物が潜在精巣であると診断されており、まだ手術を受けていない場合は、日々の状態を注意深く観察する必要があります。以下の症状が見られた場合は、生命を脅かす精巣捻転や進行した腫瘍の合併症が疑われるため、直ちに救急外来を受診してください。
- 突然の激しい腹痛(鳴く、お腹を触られるのを嫌がる、お腹をかばう姿勢をとる)
- 持続的な嘔吐や食欲不振
- 極度の無気力や虚脱
- 鼠径部(股の付け根)の突然の痛みを伴う腫れ
- 左右対称の脱毛、皮膚の黒ずみ、または雄における乳頭・乳腺の発達
特定の犬種における注意点
ダックスフンド
ダックスフンドは、潜在精巣の遺伝的素因が明確に証明されている犬種です。本種における潜在精巣は常染色体劣性遺伝として遺伝します。これは、個体が実際に潜在精巣を示すためには、両親の双方から異常遺伝子を受け継ぐ必要があることを意味します。したがって、潜在精巣の子犬が生まれた場合、その両親は外見上正常であっても、確実にこの遺伝子のキャリア(保因者)です。ダックスフンドを飼育されている場合は、子犬期の健康診断のたびに、獣医師に精巣が両方とも正常に下降しているか確認してもらいましょう。
参考文献
- Small Animal Internal Medicine, 5th Edition, p. 978.
- Current Techniques in Small Animal Surgery, 5th Edition, p. 565.
- Atlas of Small Animal Ultrasonography, 2nd Edition, p. 451.
症状・兆候
リスクが高い品種
診断方法
- Ultrasonography標準検査
- Hormonal testing
- Palpation
治療アプローチ
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
よくある質問
潜在精巣(留睾症・隠睾症):犬と猫における病態、診断、および治療とは
潜在精巣(隠睾)は、片方または両方の精巣が陰嚢内に下降しない一般的な遺伝性疾患です。精巣腫瘍や生命を脅かす精巣捻転のリスクを高めるため、外科的摘出(去勢手術)が強く推奨されます。
潜在精巣(留睾症・隠睾症):犬と猫における病態、診断、および治療の症状は
停留精巣 / タマタマが降りてこない / 玉が片方しかない / 睾丸が見当たらない / 片玉、両側性不妊症 / 両方の不妊 / 妊娠できない / 子供ができない、正常な性欲と二次性徴 / 性欲が正常 / 発情行動が正常 / オスらしさ・メスらしさがある、片側性症例における妊性低下 / 片方だけの問題で妊娠しにくい / 片側の異常で子宝に恵まれにくい / 片側不全による不妊傾向、前立腺肥大 / 前立腺が大きい / 前立腺の腫れ / 尿が出にくい、精巣腫瘍 / 精巣がん / 金玉が大きくなる / 睾丸のしこり / キャンタマの腫れ、精巣捻転 / 精巣がねじれる / 金玉がねじれる / 睾丸のねじれ
潜在精巣(留睾症・隠睾症):犬と猫における病態、診断、および治療はどのように診断されますか
Ultrasonography、Hormonal testing、Palpation
潜在精巣(留睾症・隠睾症):犬と猫における病態、診断、および治療はどのように治療されますか
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
出典
- Internal Medicine 5th · ページ 978
- Internal Medicine 5th · ページ 978
- Internal Medicine 5th · ページ 978
- Current Techniques in Small Animal Surgery, 5th Edition (VetBooks.ir) · ページ 565
- Atlas of Small Animal Ultrasonography, 2nd Edition · ページ 451
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。