犬と猫の口内炎
別称: Feline stomatitis, Chronic stomatitis, Lymphocytic-plasmacytic stomatitis, Chronic ulceroproliferative stomatitis
ポイント
口内炎は、犬や猫に激しい痛みをもたらす重度の口腔内炎症性疾患です。流涎(よだれ)、口臭、採食困難などを引き起こし、多くの場合、麻酔下での詳細な検査や外科的介入を含む包括的な獣医療が必要となります。

犬と猫の口内炎
要約: 口内炎は、ペットの口腔組織に激しい痛みを伴う慢性的な炎症を引き起こす疾患です。根本的な原因を特定し、適切な管理計画を立てるためには、多くの場合、麻酔下での詳細な獣医学的診断が必要となります。

口内炎は、歯肉縁を越えて口腔組織全体に広範かつ激しい炎症を引き起こします。
口内炎とは
口内炎(Stomatitis)は、犬と猫の双方にみられる、激しい痛みを伴う重度の口腔内炎症性疾患です。単なる歯肉炎(炎症が歯の周囲の歯肉に限定される病態)とは異なり、口内炎は口腔粘膜全体に広がる広範な炎症を特徴とします。これには、唇の内側、頬粘膜、舌、硬口蓋・軟口蓋、そして喉の奥のデリケートな組織(尾側口腔粘膜)などが含まれます。
ペットが口内炎を発症すると、歯垢(プラーク)などの口腔内刺激に対して免疫系が異常反応を示すか、あるいは背景にある全身性疾患が引き金となって、慢性的かつ侵襲性の高い炎症状態に陥ります。組織は腫脹し、潰瘍化し、容易に出血するようになります。口腔内は非常に知覚が過敏な部位であるため、この病態は極度の苦痛をもたらし、採食、嚥下、毛づくろいといった日常の基本動作を行うことすら困難になります。
獣医学においては、病変の現れ方や浸潤している細胞の種類に応じて、いくつかの名称で呼ばれます。「猫の慢性歯肉口内炎」、「リンパ球形質細胞性口内炎(組織に浸潤する特定の免疫細胞に由来)」、「慢性潰瘍増殖性口内炎」などの用語が用いられますが、いずれの病名であってもペットのQOL(生活の質)に対する悪影響は極めて大きく、痛みを管理するための迅速な獣医療介入が不可欠です。
原因とリスク要因
口内炎は多因子性の複雑な疾患であり、単一の原因で発症することは稀です。通常は、異常な免疫応答に、感染症、代謝性疾患、あるいは環境要因が複合的に関与して発生します。
全身性疾患および免疫抑制性疾患
免疫機能の低下は、口腔内炎症を引き起こす主要な要因の一つです。ペットの免疫防御機構が損なわれると、通常の口腔内細菌叢に対して過剰な炎症反応が誘発されます。主要な獣医内科学の文献には以下のように記載されています。
「臨床医は、二次性口内炎を伴う免疫抑制(例:FeLV、FIV、糖尿病、副腎皮質機能亢進症など)の可能性を常に考慮すべきである。」 — Internal Medicine, p. 465
猫におけるウイルス感染症
猫においては、特定のウイルス性病原体が慢性口腔内炎症と密接に関連しています。猫カリシウイルス(FCV)および猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)は、長期的な口腔内病変を引き起こす代表的な呼吸器系ウイルスです。FHV-1は角膜潰瘍などの眼症状を伴うことが多いのに対し、FCVは慢性口腔疾患の強力な誘因として知られています。救急医療の専門書には以下のように述べられています。
「FCVキャリアの一部において、治療抵抗性を示すことが多い慢性リンパ球形質細胞性口内炎、または慢性潰瘍増殖性口内炎が発症する。」 — Small Animal Critical Care Medicine, p. 563
その他の関与因子
- 免疫介在性反応: 歯面に付着した微細なプラーク(歯垢)に対する不適切な免疫応答。
- 代謝性疾患: 進行した腎臓病(尿毒症)などにより血中に老廃物が蓄積し、これが口腔粘膜の潰瘍化を引き起こす病態。
- 外傷: 口腔内の物理的損傷や化学物質への曝露による局所的な重度炎症。
- 遺伝的素因(犬種・猫種): どの犬や猫でも発症する可能性がありますが、マルチーズにおいては「慢性潰瘍性歯肉口内炎(CUPS)」と呼ばれる特殊な病態への遺伝的素因が確認されています。
注意すべき臨床症状
口内炎の症状は、口腔内の激しい痛みと炎症に直結しています。動物は本能的に痛みを隠す傾向があるため、飼い主はわずかな行動の変化を見逃さないようにする必要があります。
一般的な症状
- 激しい口腔内の痛み: 採食時に悲鳴を上げる、前肢で口元を頻繁にこする、フードを口に咥えた直後に落とすなどの行動が見られます。
- 粘稠度の高いよだれ: 流涎(よだれ)の増加は典型的な症状であり、糸を引くような粘り気のあるよだれに血液が混じることがあります。
- 重度の口臭: 通常のペットの口臭とは明らかに異なる、独特の不快な悪臭(腐敗臭)が漂います。
- 食欲不振(アノレキシア): 食欲が完全に消失するか、あるいは空腹そうにフードボウルに近づくものの、痛みのために食べられない状態に陥ります。
時に見られる症状
- 体重減少: 咀嚼や嚥下が困難になることで、段階的または急速な体重減少が起こります。
- 嚥下困難(ジスファジー): 飲み込むことが困難になり、食べようとするときに頭を不自然に傾ける仕草をすることがあります。
- 発熱(パイレキシア): 全身性の炎症反応や二次的な細菌感染により、体温が上昇することがあります。

粘稠度の高い糸を引くようなよだれや、口元を前肢でこする仕草は、激しい口腔内の痛みを示す代表的な行動変化です。
獣医師による診断方法
口内炎の診断には、口腔内腫瘍や重度の歯周病など他の疾患を除外するとともに、根本的な原因を特定するための体系的なアプローチが必要です。
麻酔下での口腔内検査
徹底的な口腔内検査が診断の基本となります。口腔内は非常に強い痛みを伴うため、覚醒状態の動物に対して安全かつ人道的な詳細検査を行うことは困難です。全身麻酔下において、獣医師は喉の奥(尾側口腔粘膜)、舌、歯肉を詳細に観察し、炎症の広がりを正確に評価します。
歯科用レントゲン検査
下顎骨および上顎骨のデジタルX線撮影を行います。これにより、歯肉に隠れた歯根や周囲の歯槽骨の状態を評価することができます。これは、炎症を悪化させている潜在的な歯周病、歯の吸収病変、あるいは骨髄炎を特定するために不可欠なプロセスです。
組織生検
口腔組織が増殖性(過形成)を示している場合や、左右非対称に病変が広がっている場合は、組織生検が実施されます。採取された微小な組織サンプルは病理組織検査に回され、口内炎の確定診断を行うとともに、扁平上皮癌などの悪性腫瘍の可能性を除外します。
一般的な臨床病理検査
全血球計算(CBC)や血液化学検査などの標準的な血液検査を行い、糖尿病や腎臓病などの基礎にある代謝性疾患をスクリーニングします。また、猫においては猫白血病ウイルス(FeLV)および猫免疫不全ウイルス(FIV)の検査が強く推奨されます。
細菌培養検査
炎症を起こしている口腔内の細菌を培養することは一見合理的に思えますが、一般的な口内炎においてこの検査が治療に寄与することは稀です。獣医学文献には以下のように記載されています。
「重度の口臭や細菌感染に二次的な口内炎を呈している動物であっても、瘻管や膿瘍が存在しない限り、細菌培養検査から得られる有益な情報は極めて少ない。」 — Internal Medicine, p. 402

歯肉縁下の歯根や顎骨の状態を評価するために、歯科用レントゲン検査は不可欠です。
治療の選択肢
口内炎の管理は容易ではなく、個々の症例に合わせた多角的な(マルチモーダルな)アプローチが必要です。単一の薬剤で完治させることは難しいため、治療の主眼は痛みの緩和、炎症の制御、および免疫応答を引き起こす要因の除去に置かれます。
外科的治療
慢性かつ難治性の口内炎を呈する多くの犬や猫において、外科的な抜歯術が最も効果的な長期治療法となります。プラークや細菌が付着する足場となる歯を除去することで、免疫刺激の主要なソースを排除します。病変の重症度や範囲に応じて、全臼歯抜歯(前臼歯と後臼歯のみを抜歯)または全顎抜歯が選択されます。非常に侵襲性の高い治療に思えるかもしれませんが、動物は歯がなくても十分に食事を摂取することが可能であり、術後の痛みが消失した後は、多くの場合において食欲や活力が劇的に改善します。
内科的治療
外科手術が適応とならない場合、あるいは抜歯後も炎症が持続する場合には、以下のような内科療法が用いられます。
- 疼痛管理: QOLを維持するため、獣医師が処方する適切な鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬や麻薬系鎮痛薬など)を日常的に投与します。
- 抗炎症薬および免疫抑制療法: 過剰な免疫反応を抑制し、組織の発赤や腫脹を軽減するために、副腎皮質ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制剤が使用されることがあります。
- 専門的な歯科スケーリング: 抜歯が適応とならない軽度の症例では、定期的に麻酔下でのプロフェッショナルスケーリングを行い、プラークの蓄積を最小限に抑えます。
予後
口内炎を患うペットの長期的な見通しは、基礎疾患の有無や診断の時期に大きく左右されます。
治療可能な代謝性疾患や一過性のウイルス感染に起因する局所性口内炎の場合、原疾患の管理により予後は良好です。しかし、猫カリシウイルスに関連する慢性のリンパ球形質細胞性口内炎の場合、治療抵抗性を示すことが多く、管理が難航することがあります。
多くの症例が抜歯によって劇的な改善を示しますが、一部の症例では術後も生涯にわたる内科的管理が必要となります。QOLを良好に維持することは十分に可能ですが、それには飼い主の根気強いケアと長期的なコミットメントが必要です。
予防
口内炎は免疫介在性要因や遺伝的素因が大きく関与しているため、完全に予防することは困難です。しかし、以下の予防的ケアによって発症リスクや重症化を大幅に抑えることができます。
- 徹底した口腔衛生管理: ペット用歯磨き粉を用いた毎日のブラッシングや、定期的な動物病院での歯科検診・スケーリングにより、プラークの蓄積を最小限に抑えます。
- ワクチン接種: 猫カリシウイルス(FCV)および猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)の混合ワクチンを適切に接種することで、慢性口腔疾患に関連するウイルス感染を防ぐ、あるいは軽症化させることができます。
- 早期スクリーニング: 定期的な健康診断により、歯肉炎の段階で早期に発見し、口内炎への進行を防ぎます。
獣医師に相談すべきタイミング
口内炎は進行性の痛みを伴う病態であり、自然に治癒することはありません。口臭、流涎、または採食行動の変化に気づいた場合は、速やかに獣医師に相談してください。
以下の緊急兆候が見られる場合は、直ちに獣医療機関を受診してください:
- 24時間以上の完全な絶食・絶水
- フードボウルを前にして痛そうに鳴く、叫ぶ、または逃げ出す
- 口腔内または鼻腔からの重度の出血
- 高熱を伴う極度の虚脱・沈鬱
特定の犬種における注意点
マルチーズ
マルチーズは、慢性潰瘍性歯肉口内炎(CUPS: Chronic Ulcerative Paradental Stomatitis)と呼ばれる特殊な病態に対する遺伝的素因が知られています。この病態では、歯と直接接触する唇の内側や頬粘膜に、激しい痛みを伴う潰瘍(「接触性病変」または「キッシングレス(kissing lesions)」と呼ばれる)が形成されます。これはプラークに対する過敏反応です。マルチーズの飼い主は、毎日のホームケアを徹底し、歯肉の発赤が見られたら早期にプロフェッショナルケアを受ける必要があります。
参考文献
- Internal Medicine, 5th Edition, pages 402, 465.
- Small Animal Critical Care Medicine, 2nd Edition, page 563.
症状・兆候
リスクが高い品種
診断方法
- Bacterial culture
- Biopsy
- Radiographs of the mandible and maxilla
- Routine clinical pathology data
- Thorough oral examination under anesthesia
よくある質問
犬と猫の口内炎とは
口内炎は、犬や猫に激しい痛みをもたらす重度の口腔内炎症性疾患です。流涎(よだれ)、口臭、採食困難などを引き起こし、多くの場合、麻酔下での詳細な検査や外科的介入を含む包括的な獣医療が必要となります。
犬と猫の口内炎の症状は
食欲不振 / ご飯を食べない / 食欲がない / エサを食べない、疼痛 / 痛み / 痛がる / 痛そう、重度口臭 / 口がすごく臭い / 息が臭い / 口臭がひどい、粘稠性唾液 / ねばねばしたよだれ / 糸を引くよだれ / 粘り気のあるよだれ、嚥下困難 / 飲み込めない / ごっくんしにくい / 飲み込みが悪い、発熱 / 熱がある / 体があつい / お熱、体重減少 / 痩せる / 体重が減る / 痩せてきた
犬と猫の口内炎はどのように診断されますか
Bacterial culture、Biopsy、Radiographs of the mandible and maxilla、Routine clinical pathology data、Thorough oral examination under anesthesia
出典
- Internal Medicine 5th · ページ 465
- Internal Medicine 5th · ページ 402
- Small Animal Critical Care Medicine, 2nd Edition (VetBooks.ir) · ページ 563
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。