猫の拘束型心筋症(RCM):症状、原因、診断、治療法について
Feline restrictive cardiomyopathy
別称: RCM, Feline Restrictive Cardiomyopathy, Endomyocardial Fibrosis
ポイント
拘束型心筋症(RCM)は、心筋の線維化によって心室が硬化する、猫の稀ながらも重篤な心疾患です。心臓の拡張不全から鬱血性心不全や動脈血栓塞栓症を引き起こすリスクが極めて高くなります。その臨床症状、診断アプローチ、治療管理について解説します。

猫の拘束型心筋症(RCM)
TL;DR. 拘束型心筋症(RCM)は、心筋の内膜や心筋自体に生じる線維化(瘢痕組織)によって心室が硬化し、血液の十分な流入(拡張)が妨げられる進行性の猫の心疾患です。鬱血性心不全や血栓塞栓症を高い頻度で引き起こします。

拘束型心筋症では、線維化(瘢痕組織)によって心壁が硬化し、左心房が著しく拡大します。
拘束型心筋症とは
拘束型心筋症(RCM)は、猫における稀ながらも重篤な心筋疾患です。RCMを理解するためには、猫の心筋症の分類を知ることが役立ちます。主要な獣医学文献には以下のように記載されています。
この分類法に基づくと、心筋症には主に4つの基本型が存在する:(1) 拡張型心筋症、(2) 肥大型心筋症(HCM)、(3) 拘束型心筋症(RCM)、(4) 不整脈源性右室心筋症。これらすべての病型が猫において観察される。
猫の心筋症において最も一般的なのは肥大型心筋症(HCM)ですが、RCMはそれとは異なる独自の病態と課題を持っています。HCMでは心筋が異常に肥厚するのに対し、RCMにおける主たる問題は心筋の厚みではなく、極度の「硬化(スティフネス)」にあります。この硬化は、心壁内部における「広範な心内膜、心内膜下、または心筋の線維化(瘢痕組織)」によって引き起こされます。
瘢痕組織によって心筋が硬化すると、心拍の合間に心臓が十分に弛緩(拡張)できなくなります。この弛緩障害は「拡張不全(diastolic dysfunction)」と呼ばれます。心臓の収縮能(血液を送り出す力)は比較的良好に維持される場合もありますが、拡張して血液を受け入れることができなくなります。その結果、血液が左心房(血液を受け取る部屋)に鬱滞し、著しい左心房拡大を引き起こします。時間の経過とともにこの逆圧が上昇し、肺や胸腔内へ液体が漏れ出すことで、鬱血性心不全(CHF)へと進行します。
獣医循環器領域において、RCMは解剖学的に主に「心筋型(myocardial form)」と「心内膜心筋型(endomyocardial form)」の2つに分類されます。心内膜心筋型では、瘢痕組織が主に心臓の内膜に形成されます。専門書には以下のように記述されています。
心内膜心筋型では、心内膜の線維化が優位であり、多くは左心室の心尖部に位置する。心室腔は変形し、時に心尖部の閉塞や心室内狭窄を伴う。僧帽弁装置が癒着・変形することもある。
このような心臓内部の構造的歪みは、心機能をさらに悪化させ、RCMを極めて複雑かつ進行性の病態にしています。
原因とリスク要因
拘束型心筋症は「特発性(原因不明)」に分類されますが、獣医研究者はその発症機序が多因子性であると考えています。主要な獣医内科学の教科書には以下のように述べられています。
拘束型心筋症(RCM)は、原因不明(おそらく多因子性)の広範な心内膜、心内膜下、または心筋の線維化を特徴とする。本病態は、心内膜心筋炎の帰結、あるいはHCMに起因する心筋不全や心筋梗塞の終末像である可能性がある。腫瘍性疾患(リンパ腫など)や、その他の浸潤性・炎症性疾患も関与している可能性がある。
つまり、一部の猫においては、過去に発生した未診断の心筋炎(心内膜心筋炎)の最終段階であったり、進行したHCMによる「心筋梗塞」の結果としてRCMに至るケースがあると考えられています。また、リンパ腫や好酸球増加症候群(異常な白血球の集積)などの浸潤性疾患が線維化を誘発することもあります。
リスク要因に関して、RCMは一般的に中年齢から高齢の猫で診断されます。現時点で、猫の拘束型心筋症における明確な品種好発性は報告されていません。メインクーンやラグドールなどで遺伝的関与が強く示唆されているHCMとは異なり、RCMは品種や血統に関わらず、どのような猫にも発生する可能性があります。
注意すべき臨床症状
猫は病気を隠すのが非常に得意であり、心疾患も例外ではありません。病態は進行しているものの外見上の症状が現れない「無症状期(不顕性期)」がどの程度続くかは不明です。症状が現れる段階になると、軽微な行動の変化から、突然の生命を脅かす緊急事態まで、多岐にわたる症状がみられます。
一般的な症状
- 呼吸器症状: 最も多く認められる臨床症状です。呼吸数の増加(頻呼吸)、努力性呼吸(呼吸が苦しそうに見える)、口を開けての呼吸(開口呼吸・パンティング)などが観察されます。
- 活動性の低下と沈鬱: 睡眠時間が長くなる、遊びに関心を示さなくなる、キャットタワーや家具へのジャンプを躊躇するなどの変化が見られます。
- 食欲不振と体重減少: 慢性的な心不全による身体への負担から、徐々に食事量が減少し、顕著な体重減少が起こります。
- 嘔吐: 人とは異なり、猫の心疾患では全身性の苦痛や血流不全のサインとして嘔吐が比較的よく見られます。
- 頸静脈怒張および拍動: 首の静脈が腫れて見えたり、脈打つのが目視できたりします。これは右心系の高圧化により、全身の太い静脈に血液が逆流することで発生します。
- 血栓塞栓症(動脈血栓塞栓症): 拡大した左心房内で血液が滞留するため、RCMの猫は血栓を形成するリスクが極めて高くなります。血栓が剥がれて血流に乗ると、多くは後肢へ分岐する大動脈の分岐部に詰まります(サドル血栓)。これにより、突然の激しい疼痛、後肢の麻痺(動かせなくなる)、後肢肉球の冷感などが引き起こされます。
時折見られる症状
- 収縮期雑音: 聴診時に、心臓から異常な雑音(ザーという音)が聞こえることがあります。
- ギャロップ音: 心室の硬化に伴う拡張不全を示す、過剰な心音(馬が駆けるようなタッタッタという音)が聴取されることがあります。
- 不整脈: 瘢痕組織が心臓の電気伝導路を阻害することで、不整脈が発生することがあります。

呼吸努力の増加や腹式呼吸は、猫の鬱血性心不全における重要な警告サインです。
獣医師による診断方法
RCMの症状は他の猫の心疾患や肺疾患と重複するため、詳細な診断検査が不可欠です。獣医師はまず身体検査を行い、心雑音、ギャロップ音、または肺の異常音(肺水腫を示唆する捻髪音など)がないか慎重に聴診します。
RCMの確定診断には、以下の検査が推奨されます。
超音波検査(ゴールドスタンダード)
心エコー検査(心臓超音波検査)は、RCMを確定診断できる唯一の方法です。これにより、獣医循環器専門医は心臓の内部構造や動きをリアルタイムで評価できます。超音波検査では、以下の所見を確認します。
- 左心房(または両心房)の著しい拡大。
- 心室壁の厚さが正常またはほぼ正常であること(これによりHCMを除外します)。
- 拡張期における心壁の硬化または柔軟性の欠如。
- 心内膜心筋型の場合、左心室尖部の構造的歪みや「閉塞」、あるいは僧帽弁の変形。
- 左心房内における血栓の存在、または「スモーク(自然エコーコントラスト:血流が滞り、血液が渦巻いている状態)」。
従来の超音波検査は構造的変化の検出に優れていますが、心筋収縮の極めて微細な変化は見落とされることがあります。超音波検査の専門書には以下のように記載されています。
この心筋収縮機能障害は、通常の心エコー検査では検出できないことが多い。上述の収縮期および拡張期の心筋変化は、心筋の局所で観察されることがある。
専門医は、このような初期の微細な心筋機能の変化を検出するために、高度な超音波技術(組織ドプラ法やスペックルトラッキング法など)を用いることがあります。
胸部レントゲン検査
レントゲン検査は、心疾患が猫の肺に及ぼしている影響を評価するために極めて重要です。肺組織内の液体貯留(肺水腫)や、胸腔内の液体貯留(胸水)の有無を確認できます。また、心臓全体のシルエットも描出されます。RCMの猫では、重度の両心房拡大により、心臓が特徴的な「バレンタインハート(逆ハート型)」を呈することがよくあります。
心電図検査(ECG)
心電図は心臓の電気的活動を記録します。RCMでは心筋の広範な線維化(瘢痕化)を伴うため、電気伝導路が乱れやすくなります。心電図検査は不整脈を特定・分類し、適切な標的治療を行うために用いられます。
治療の選択肢
現在、拘束型心筋症を根治させる治療法はなく、心筋内の線維化(瘢痕組織)を消失または逆転させる特定の薬剤も存在しません。そのため、治療の主眼は鬱血性心不全の管理、血栓形成の予防、および猫のQOL(生活の質)の維持・サポートに置かれます。
獣医師は、猫の病期(ステージ)に合わせて個別の治療計画を立てます。
鬱血性心不全の管理
肺や胸腔内に液体が貯留している場合、呼吸を楽にするために速やかにこれを除去することが最優先されます。
- 利尿薬: フセミド(furosemide)などの薬剤は、尿量を増やすことで体内の余分な水分を排出させます。急性緊急時には注射薬として投与され、長期管理では経口薬が用いられます。
- ACE阻害薬: 血管を拡張させて血圧を下げ、硬化した心臓が血液を送り出しやすくするのを助けます。
血栓塞栓症(動脈血栓塞栓症)の予防
RCMの猫では血栓形成のリスクが極めて高いため、予防療法は長期管理の要となります。
- 抗血小板薬: 拡大した左心房内で血小板が凝集して危険な血栓を形成するのを防ぐため、クロピドグレル(clopidogrel)などの薬剤が一般的に処方されます。
心機能および心拍律のサポート
- 抗不整脈薬: 危険な不整脈が認められる場合、心臓の電気的活動を安定させるために抗不整脈薬が処方されることがあります。
- β遮断薬またはカルシウム拮抗薬: 心拍数を低下させ、硬化した心室に血液が充満する時間を確保するために考慮されることがあります。ただし、活動性の心不全を呈している猫への使用には極めて慎重な判断が必要です。
予後
拘束型心筋症を患う猫の予後は、一般的に「慎重(経過観察が必要)」から「不良」とされています。RCMは進行性の疾患であり、時間の経過とともに悪化します。瘢痕組織が広がるにつれて心臓の拡張能は低下し続け、最終的には左心不全または両心不全による鬱血性心不全に至ります。
主要な獣医内科学の文献には以下のように述べられています。
不整脈、心室拡張、および心筋虚血や心筋梗塞も拡張不全の進行に関与する。慢性的な左心充満圧の上支は、代償性の神経体液性因子の活性化と相まって、左心不全または両心不全(CHF)を引き起こす。RCMにおける無症状期の進行期間は不明である。
症状が現れる前にどの程度の期間病気が進行していたかを把握することは困難であるため、多くの猫は鬱血性心不全を発症するか、血栓塞栓症を起こした後に初めて診断されます。突然死や致命的な血栓塞栓症のリスクは、病期全体を通じて常に高く存在します。
しかし、早期発見、緊密な獣医療管理、そしてご家庭での丁寧なケアにより、数ヶ月から、症例によっては1年以上、良好なQOLを維持できる猫もいます。獣医師は、自宅での安静時呼吸数の測定方法を指導します。これは、体液貯留の初期兆候を捉える最も感度の高い方法の一つです。
予防法
拘束型心筋症は特発性疾患であり、既知の遺伝子マーカーや品種好発性もないため、現時点で発症を予防する方法はありません。
最も効果的な対策は、積極的な予防医療です。定期的(年1〜2回)な身体検査により、獣医師が心音を聴取します。新たな心雑音、不整脈、またはギャロップ音が検出された場合、心エコー検査や心臓バイオマーカー検査(NT-proBNPなど)といった早期スクリーニング検査が推奨されます。呼吸困難や血栓塞栓症などの重篤な症状が現れる前に心臓の変化を捉えることが、心臓の健康をサポートし、愛猫と穏やかに過ごせる時間を延ばすための最善の機会となります。
動物病院に連絡すべきタイミング
RCMを患う猫の病態は急速に悪化することがあります。自宅で注意深く観察し、緊急事態のサインを把握しておくことが極めて重要です。
以下の症状が1つでも見られた場合は、直ちに獣医師に連絡するか、救急動物病院を受診してください。
- 安静時の呼吸が速い(1分間に30〜40回以上が持続する)
- 努力性の呼吸、激しい腹式呼吸、または口を開けた呼吸(パンティング)
- 突然の虚脱、倒れる、または立ち上がれなくなる
- 後肢の突然の麻痺、後ろ足を引きずる、または激しい痛みで鳴き叫ぶ
- 後ろ足の肉球が冷たい、または肉球の色が青白い・紫がかっている
- 完全な食欲廃絶、または極度の沈鬱状態
参考文献
- Small Animal Critical Care Medicine, Page 250.
- Internal Medicine, Page 187.
- Clinical Echocardiography of the Dog and Cat, Pages 211, 212.
注:本稿は情報提供のみを目的としており、専門的な獣医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。愛猫の健康に関する疑問は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
症状・兆候
リスクが高い品種
診断方法
- Echocardiography標準検査
- Electrocardiography (ECG)
- Thoracic radiography
よくある質問
猫の拘束型心筋症(RCM):症状、原因、診断、治療法についてとは
拘束型心筋症(RCM)は、心筋の線維化によって心室が硬化する、猫の稀ながらも重篤な心疾患です。心臓の拡張不全から鬱血性心不全や動脈血栓塞栓症を引き起こすリスクが極めて高くなります。その臨床症状、診断アプローチ、治療管理について解説します。
猫の拘束型心筋症(RCM):症状、原因、診断、治療法についての症状は
活動性低下 / 動きたがらない / じっとしている / 寝てばかりいる、頸静脈怒張 / 首の血管が浮き出る / 首の血管が太くなっている / 首の青筋が目立つ、頸静脈拍動 / 首の血管がピクピク動く / 首の血管が波打つ / 首の脈が目立つ、食欲不振 / ご飯を食べない / 食欲がない / 食いつきが悪い / 食べ残しが多い、呼吸器症状 / 呼吸が荒い / 息苦しそう / ゼーゼーする / 咳が出る、血栓塞栓症 / 血栓 / 血管の詰まり / 血の塊、嘔吐 / 吐く / ゲロ吐く / 吐き戻し、体重減少 / 痩せる / 体重が減る / 痩せてきた
猫の拘束型心筋症(RCM):症状、原因、診断、治療法についてはどのように診断されますか
Echocardiography、Electrocardiography (ECG)、Thoracic radiography
出典
- Small Animal Critical Care Medicine, 2nd Edition (VetBooks.ir) · ページ 250
- Internal Medicine 5th · ページ 187
- Clinical Echocardiography of the Dog and Cat · ページ 212
- Internal Medicine 5th · ページ 187
- Clinical Echocardiography of the Dog and Cat · ページ 211
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。