馬の腺疫:原因、症状、治療、およびバイオセキュリティ対策
ポイント
腺疫は、腺疫菌(Streptococcus equi)によって引き起こされる感染力の非常に強い馬の上気道感染症です。発熱、下顎リンパ節の腫脹、鼻汁を特徴とし、感染拡大を防ぎ、喉嚢蓄膿症などの合併症を管理するためには、厳格なバイオセキュリティと適切な獣医療管理が不可欠です。

腺疫
TL;DR. 腺疫は、腺疫菌による感染力の非常に強い馬の呼吸器感染症であり、発熱、下顎リンパ節の腫脹、および鼻汁を引き起こします。感染拡大を防ぐためには、厳格な隔離と慎重な獣医療管理が必要です。

感染馬の早期発見と隔離は、腺疫のアウトブレイクを管理する上で極めて重要な第一歩です。
腺疫とは?
腺疫(せんえき)は、腺疫菌(Streptococcus equi、特に Streptococcus equi 亜種 equi)によって引き起こされる馬の感染性上気道疾患です。非常に強い感染力を持ち、厩舎や群れ全体に急速に拡大するため、馬の呼吸器疾患の中で最も一般的かつ警戒されている病気の一つです。英語名の「strangles(絞殺)」は、喉頭部のリンパ節が著しく腫脹し、時に気道を圧迫して呼吸困難を引き起こすことに由来しています。
馬が腺疫菌を吸入または経口摂取すると、細菌は速やかに扁桃の細胞に付着し、頭部および頸部の局所リンパ節へと移行します。生体はこれに対して激しい炎症反応を示し、感染と戦うために白血球を送り込みます。これにより、リンパ節内に痛みを伴う膿瘍が形成されます。これらのリンパ節が腫脹すると、咽頭や喉頭が圧迫され、嚥下痛や呼吸困難が生じます。
馬の所有者や管理者にとって、腺疫は罹患馬の肉体的な苦痛だけでなく、アウトブレイクの管理に伴う莫大な経済的・ロジスティックな負担という点でも重大な懸念事項です。1頭でも感染が確認されれば、乗馬クラブ、育成牧場、競馬場などが数週間から数ヶ月にわたって閉鎖されることがあり、病気の完全な根絶を確認するためには厳格な隔離プロトコルと広範な検査が必要となります。

咽頭後リンパ節と喉嚢は近接しているため、膿汁がこの空気で満たされた嚢内に容易に流入します。
原因とリスク要因
腺疫の唯一の原因は、グラム陽性菌である腺疫菌(Streptococcus equi)です。この細菌は馬に高度に適応しており、通常は他の家畜やヒトに感染することはありませんが、ロバやラバを含む馬科動物の間では極めて高い感染力を持ちます。
伝播は、直接的な馬同士の接触、または汚染された物品(媒介物)を介した間接的な接触によって起こります。直接伝播は、感染馬が咳やくしゃみをしたり、他の馬と鼻を突き合わせたりすることで、鼻汁や自潰した膿瘍からの膿汁が移行することにより発生します。間接伝播は非常に一般的であり、水桶、飼い桶、無口(むくち)、手入れ用具、あるいは馬房を共有することによって起こります。また、人間が感染馬を扱った後、手指、衣服、あるいはブーツを介して細菌を容易に媒介することもあります。
腺疫において特定の品種による感受性の差は認められていませんが、以下のような要因によって感染リスクが高まります。
- 年齢: 若齢馬、特に離乳馬、1歳馬、および若齢成馬は、腺疫菌に対する免疫を十分に獲得していないため、極めて高い感受性を示します。
- 移動の多い環境: 馬の出入りが頻繁な厩舎、育成牧場、競技会場、セリ場などは、病原体が持ち込まれ、拡散するリスクが非常に高くなります。
- ストレス: 輸送、過度なトレーニング、栄養不良、あるいは併発疾患は、馬の免疫力を低下させ、病原体に曝露した際の感染リスクを高めます。
注意すべき症状
腺疫の臨床症状は、通常、細菌に曝露してから3〜14日以内に現れます。これらの症状を早期に発見することは、感染馬を速やかに隔離し、牧場全体への感染拡大を防ぐために極めて重要です。
一般的な症状
- 発熱: 通常、これが最初の兆候であり、しばしば39.4°C〜41.1°C(103°F〜106°F)に達します。発熱は通常、鼻汁やリンパ節の腫脹が認められる24〜48時間前に発生します。
- 沈鬱および嗜眠: 元気がなくなり、頭を下げてじっと立ち、周囲の状況に関心を示さなくなります。
- 食欲不振: 高熱と嚥下時の激しい痛みにより、飼料や水を拒むようになります。
- リンパ節腫脹: 下顎リンパ節(下あごの下)や咽頭後リンパ節(喉頭周辺)が熱感を持ち、腫脹し、触診時に強い痛みを伴います。これらの腫脹はしばしば膿瘍へと進行し、最終的には自潰して、粘稠でクリーム状の黄白色の膿汁を排出します。
稀な症状または合併症
- 呼吸困難: 咽頭後リンパ節が著しく腫脹すると、咽頭や気管が圧迫され、喘鳴(ぜんめい)や努力性呼吸が生じます。これは獣医学的な緊急事態です。
- 喉嚢感染: 喉嚢(こうのう)は、馬の咽頭上部にある空気で満たされた特有の嚢です。自潰した咽頭後リンパ節からの膿汁がこの嚢内に直接流入すると、喉嚢蓄膿症を引き起こします。治療を行わずに放置すると、膿汁が乾燥して「コンドロイド(軟骨様結石)」と呼ばれる石のような固形物になり、細菌を長期的に保持する原因となります。

下顎リンパ節の著しい腫脹は、腺疫の典型的な臨床症状です。
獣医師による診断方法
腺疫の診断は、臨床症状、身体検査、および実験室検査を組み合わせて行われ、馬インフルエンザや馬ヘルペスウイルス感染症などの他の呼吸器感染症との鑑別がなされます。
腺疫菌の存在を確定するために、獣医師は通常、以下の検査を実施します。
- 鼻腔スワブまたは鼻咽頭洗浄: 滅菌された長い綿棒を鼻腔に挿入するか、少量の滅菌生理食塩水を咽頭後部に注入して回収し、細菌サンプルを採取します。
- PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査: 腺疫菌のDNAを検出する極めて感度の高い検査です。最も迅速に細菌を特定できる方法であり、感染の初期段階や、無症状の保菌馬(キャリア)の検出にも有用です。
- 細菌培養検査: 採取したサンプルから細菌を培地で培養します。結果が出るまでに数日(通常2〜5日)かかりますが、生存している生菌の存在を証明するためのゴールドスタンダードとされています。
- 喉嚢内視鏡検査: 慢性感染が疑われる場合や、隔離解除のための陰性確認を行う際、柔軟なファイバースコープ(内視鏡)を鼻腔から喉嚢内に挿入します。これにより、炎症、膿汁、またはコンドロイドの有無を直接目視で確認できます。
治療の選択肢
腺疫の治療法は、病期や臨床症状の重症度によって大きく異なります。獣医師は個々の馬の状態に合わせて最適な治療計画を立てます。
支持療法
合併症のない一般的な腺疫症例では、支持療法が治療の基本となります。
- 安静と環境管理: 温暖で乾燥し、埃がなく、換気の良い環境で馬を休ませます。
- 軟らかく嗜好性の高い飼料: 嚥下しやすいよう、水でふやかした飼料、浸漬した牧草、または青草を与えます。
- 温湿布(温罨法): 腫脹したリンパ節に温湿布を適用して膿瘍化と自潰を促し、排膿させることで痛みを速やかに和らげます。
- 自潰後の腔内洗浄: 膿瘍が自潰した後は、獣医師の指示に従い、希釈した消毒液で毎日腔内を洗浄し、内部からの治癒を促進します。
抗菌薬療法
腺疫治療における抗菌薬の使用については慎重な判断が必要であり、必ず獣医師の指示に従う必要があります。膿瘍が形成される前の極めて早期に抗菌薬を投与すると、病勢の自然な進行が遅れ、馬が十分な免疫を獲得できなくなる可能性があります。しかし、呼吸困難、持続する高熱、または全身の他の部位に感染が広がる「転移性腺疫(迷走腺疫)」などの重篤な合併症が生じている場合には、抗菌薬の投与が不可欠です。
腺疫菌感染症に対しては、天然ペニシリン系薬剤が第一選択薬となります。
- ペニシリンG: 重症例の全身治療として、通常は筋肉内注射で投与されます。
- ペニシリンVカリウム: 特定の臨床状況において、獣医師の厳密な監視のもとで使用される経口ペニシリン製剤です。
喉嚢の治療
感染が喉嚢に及んでいる場合、細菌を完全に排除し、馬が慢性的な無症状保菌者になるのを防ぐために、局所的な治療が必要となります。これには、喉嚢の洗浄と、専用のペニシリンゲルの喉嚢内への直接注入が含まれます。
獣医内科学の専門書には以下のように記載されています。
「注入は、鼻腔から挿入したカテーテルを内視鏡ガイド下で喉嚢開口部に進めることで最も容易に行えます。カテーテルの先端1インチ(約2.5cm)に角度をつけておくと、喉嚢弁の下への進入が容易になります。注入後20分間は馬の頭部を高く保ちます。」
この局所療法は、喉嚢内の感染を排除し、炎症を鎮め、感染源となるコンドロイドの形成を防ぐ上で極めて高い効果を発揮します。
予後
適切な支持療法、安静、および隔離管理が行われれば、腺疫の予後は一般的に良好です。大多数の馬(約90%〜95%)は後遺症なく完全に回復します。回復した馬の多くは、数年間にわたって持続する強い免疫を獲得します。
しかし、一部の馬では以下のような深刻で生命を脅かす合併症が発生することがあります。
- 無症状保菌状態(キャリア): 臨床的には回復したように見えても、喉嚢内に細菌を数ヶ月から数年にわたり保持し続ける馬がいます。これらの「サイレントキャリア」は間欠的に排菌し、他の馬への持続的な感染源となります。
- 出血性紫斑病: 免疫介在性の血管炎を引き起こす、稀ではあるものの生命を脅かす合併症です。四肢や頭部の著しい浮腫(むくみ)、歯肉の点状出血、血管からの滲出液貯留などを特徴とします。
- 転移性腺疫(迷走腺疫): 細菌が血流やリンパ流を介して全身に移行し、肺、腹腔、脳などの内臓に膿瘍を形成する病態です。この場合の予後は極めて慎重であり、長期にわたる積極的な治療が必要となります。
予防対策
腺疫の予防には、厳格なバイオセキュリティ対策の実践と、状況に応じたワクチン接種の組み合わせが必要です。細菌は直接的・間接的な接触によって容易に広がるため、日常的な予防管理が群れを守る最善の防御策となります。
バイオセキュリティプロトコル
- 新規導入馬の隔離: 新しく牧場や厩舎に入るすべての馬を、最低21日間は隔離します。毎日検温を行い、発熱が認められた場合は直ちに検査を実施します。
- 発症馬の迅速な隔離: 発熱、鼻汁、またはリンパ節の腫脹が認められた場合は、直ちにその馬を他のすべての馬から離れた指定の隔離エリアに移動させます。
- 専用器具の使用: 隔離されている馬と健康な群れの間で、無口、曳き手、バケツ、ブラシ、ボロ取りフォークなどの器具を絶対に共有しないでください。
- 厳格な衛生管理: 作業は必ず健康な馬から始め、隔離馬の管理を最後に行います。隔離エリアから出る際は、徹底的な手洗い、衣服の着替え、およびブーツの消毒を行います。
- 共有エリアの消毒: 共有の水桶、馬運車の内部、洗い場などは定期的に清掃・消毒を行ってください。
ワクチン接種
腺疫に対するワクチンが利用可能です。ワクチンはすべての症例で感染を完全に防ぐわけではありませんが、感染時の臨床症状の重症度を大幅に軽減し、アウトブレイク時の感染拡大を抑制する効果があります。愛馬の生活環境、移動の頻度、および感染リスクに基づいてワクチン接種が適しているかどうか、獣医師に相談してください。
獣医師に連絡すべきタイミング
腺疫は急速に進行することがあり、個々の馬の健康管理と施設全体のバイオセキュリティの双方において、早期の介入が鍵となります。
以下の緊急サインが認められた場合は、直ちに獣医師に連絡してください。
- 呼吸困難に陥っている、ヒューヒューという喘鳴やいびきのような音が聞こえる、または呼吸が非常に速い。
- 唾液を過剰に流し、水や飼料を全く飲み込むことができない、あるいは鼻から食べ物や水が逆流している。
- 39.4°C以上の高熱があり、極度に沈鬱で、水や飼料を一切受け付けない。
- 四肢、鼻先、またはまぶたが急激に著しく腫れてきた、あるいは歯肉に針で突いたような赤い点状出血が見られる(出血性紫斑病の疑い)。
- 腺疫の確定症例または疑い症例に愛馬が接触した可能性がある。
参考文献
- Newton, et al. (2000). Elimination of guttural pouch infection and inflammation in asymptomatic carriers of Streptococcus equi. Equine Vet J 32 (6): 527–532.
- Whittem, T. (1999). Appendix: Formulary of Common Equine Drugs. The Veterinary Clinics of North America: Equine Practice 15:3 (December): 747–768.
- Plumb's Veterinary Drug Handbook, pages 2778, 2784.
症状・兆候
治療アプローチ
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
よくある質問
馬の腺疫:原因、症状、治療、およびバイオセキュリティ対策とは
腺疫は、腺疫菌(Streptococcus equi)によって引き起こされる感染力の非常に強い馬の上気道感染症です。発熱、下顎リンパ節の腫脹、鼻汁を特徴とし、感染拡大を防ぎ、喉嚢蓄膿症などの合併症を管理するためには、厳格なバイオセキュリティと適切な獣医療管理が不可欠です。
馬の腺疫:原因、症状、治療、およびバイオセキュリティ対策の症状は
食欲不振 / ご飯を食べない / 食欲がない / エサを食べない、沈鬱 / 元気がない / ぐったりしている / 活気がない、発熱 / 熱がある / 体があつい / お熱、リンパ節腫脹 / リンパの腫れ / 首のしこり / リンパが腫れる、呼吸困難 / 息苦しそう / 息が荒い / 呼吸が苦しい / ハアハアしている、喉嚢炎 / 耳の下の腫れ / 喉の腫れ / 鼻から膿が出る
馬の腺疫:原因、症状、治療、およびバイオセキュリティ対策はどのように治療されますか
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
出典
- Plumb · ページ 2784
- Plumb · ページ 2778
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。