犬と猫の糸球体腎炎:症状、診断、治療法について
Glomerulonephritis
別称: GN, Immune-mediated glomerulonephritis, Acquired glomerulonephritis
ポイント
糸球体腎炎は、免疫複合体が腎臓の濾過フィルターを損傷する、犬と猫の免疫介在性腎疾患です。尿中への重度のタンパク漏出、高血圧、そして腎不全の進行を引き起こします。症状、診断、治療の選択肢について解説します。

要約: 糸球体腎炎は、免疫複合体が腎臓の濾過システムを損傷し、尿中に重度のタンパク漏出を引き起こすことで、慢性腎不全へと進行するおそれのある、犬と猫の深刻な免疫介在性腎疾患です。
糸球体は腎臓の繊細な濾過単位であり、糸球体腎炎において損傷を受けます。
糸球体腎炎とは
糸球体腎炎(しばしばGNと略されます)は、腎臓の微細な濾過フィルターである「糸球体」を標的とする特定の腎疾患です。健康な動物では、これらの微細な構造が非常に選択性の高い「ふるい」として機能します。老廃物や余分な水分を尿中に通過させる一方で、タンパク質や赤血球などの重要な成分は血液中にとどめます。
ペットが糸球体腎炎を発症すると、自身の免疫系がこのフィルターを損傷する主因となります。この疾患は、糸球体毛細血管壁内に「免疫複合体」が沈着または局所的に形成されることによって引き起こされるため、免疫介在性に分類されます。免疫複合体とは、体内の抗体が異物(抗原)と結合したときに形成される微細な塊です。これらの塊が腎臓の繊細なフィルターに詰まると、一連の炎症反応が引き起こされます。
炎症が進行するにつれて、腎臓の濾過膜は異常に「漏れやすい」状態になります。これにより、アルブミンをはじめとする重要なタンパク質が血液から漏れ出て尿中に排出されます。この状態を「蛋白尿(タンパク尿)」と呼びます。時間の経過とともに、この持続的なタンパク質の喪失は、高血圧、体液貯留、および進行性の慢性腎臓病を含む全身性の合併症を引き起こす可能性があります。
獣医内科学の主要な文献には以下のように記載されています。
「後天性糸球体腎炎(GN)は、猫よりも犬で多く見られ、糸球体毛細血管壁内における免疫複合体の存在に起因する…」
原因とリスク要因
糸球体腎炎が一次性(原発性)疾患として発生することは稀であり、通常は免疫系を長期にわたって刺激して抗体を産生させる基礎疾患によって誘発されます。これらの抗原は、慢性感染症、炎症性疾患、あるいは特定の腫瘍に由来することがあります。
これらの有害な免疫複合体が腎臓に到達する経路には、主に以下の2つがあります。
- 循環免疫複合体: 抗体と抗原の結合体が体内の他の部位で形成され、血流に乗って移動し、最終的に糸球体の細い毛細血管に捕捉されます。
- 局所(in situ)形成: 抗原がまず糸球体毛細血管壁に物理的に捕捉または局在し、そこを通過する抗体がその場で直接結合します。
例えば、フィラリア症(犬糸状虫症)に罹患している犬では、寄生虫由来のタンパク質が腎臓のフィルターに直接局在することがあります。
「免疫複合体の局所沈着の原因としては、抗体が糸球体毛細血管の基底膜に対して向けられる真の自己免疫疾患(犬や猫における自然発症例としては未だ立証されていない)、または抗原が糸球体毛細血管壁に局在する場合が挙げられる。例えば、フィラリア症の犬では、可溶性の犬糸状虫(Dirofilaria immitis)抗原が同部位に局在することが示されている。」
いくつかの犬種および猫種において、糸球体疾患への遺伝的素因が確認されているか、あるいは疑われています。一部の品種では、この病態は遺伝性であり、特定の遺伝子変異や代謝の違いに関連しています。
注意すべき症状
糸球体腎炎の臨床症状は、失われるタンパク質の量や、病態が腎不全にまで進行しているか否かによって大きく異なります。
主要な症状
- 蛋白尿(タンパク尿): 尿中への過剰なタンパク質の漏出。これは本疾患の最大の特徴であり、臨床検査によって検出されます。
一般的な症状
- 食欲不振: 食欲の低下。
- 嗜眠(元気消失): 全身の倦怠感、虚弱、または活動性の低下。
- 多尿: 排尿回数や尿量の増加。
- 多飲: 口渇感の増加と飲水量の増加。
- 嘔吐: 腎機能の低下に伴い、血液中に老廃物(毒素)が蓄積している兆候であることが多いです。
- 体重減少: 筋肉量および体重の段階的な減少。
時に見られる症状
- 皮下浮腫: 体液の貯留による皮膚の下の腫れ。特に四肢や胸の下部に見られます。
- 腹水: 腹腔内への体液貯留。お腹が膨らんだような外観(太鼓腹)になります。
- 呼吸困難: 呼吸が荒くなる、または息苦しそうにする状態。胸腔内に体液が貯留した場合や、血栓が肺に到達した場合に発生することがあります。
- 脱水: 飲水量が増加しているにもかかわらず、腎臓が水分を保持する能力を失うために発生します。
- 被毛や栄養状態の悪化: 被毛が乾燥して脆くなり、筋肉の張りが失われます。
- 不全麻痺: 後肢の虚弱または部分的な麻痺。
- 口腔内潰瘍: 口の中のただれ。通常、腎不全の末期段階で見られます。
- 失明: 突発的な視力喪失。重度の高血圧が網膜剥離を引き起こすことによる直接的な結果です。

元気消失と四肢の体液貯留(浮腫)は、重度のタンパク喪失が進行した際によく見られる症状です。
獣医師による診断方法
糸球体腎炎の診断には、タンパク喪失の他の原因を除外し、腎臓がその問題の発生源であることを確認するための体系的なアプローチが必要です。獣医師はまず、尿中に持続的に検出されるタンパク質の調査から開始します。
「蛋白喪失性腎症(PLN)の診断は、下部尿路の炎症や尿への血液混入では説明できない持続的な蛋白尿を証明することによって行われる。試験紙法による尿蛋白の初期評価は、尿沈渣および尿比重を考慮した上で評価されるべきである。」
ペットの状態を包括的に評価するために、獣医師は以下のような一連の検査を推奨します。
- 尿検査および尿蛋白/クレアチニン比(UPC): 標準的な尿検査により、タンパク質、血液、および感染の兆候を確認します。感染がないにもかかわらずタンパク質が持続的に検出される場合は、タンパク喪失の重症度を正確に測定するためにUPC比を測定します。
- 尿培養検査: 糸球体疾患と類似した症状を示す、または合併症を引き起こす可能性のある細菌性尿路感染症を除外するために行われます。
- 血液化学検査および完全血球計算(CBC): これらの血液検査により、腎機能(尿素窒素やクレアチニンなどの老廃物の測定による)を評価し、血中タンパク質レベル(アルブミンなど)を測定し、コレステロール値を測定し、貧血や全身性炎症の兆候をスクリーニングします。
- 血圧測定: 糸球体疾患を持つペットでは、高血圧が非常に多く見られます。これは、ナトリウムの貯留、レニン・アンジオテンシン系(RAS)の活性化、および天然の血管拡張物質の放出阻害によって発生します。
「糸球体疾患を患う犬や猫では、ナトリウム貯留、RASの活性化、および正常な腎血管拡張物質の放出障害に起因する全身性高血圧が発生することがある…」
- 血漿フィブリノゲンおよびアンチトロンビン濃度: 糸球体腎炎のペットは、血栓を防ぐ重要なタンパク質(アンチトロンビンなど)を尿中に失うため、危険な血栓を形成するリスクが非常に高くなります。これらの検査は、凝固状態を評価するのに役立ちます。
- フィラリア抗原検査: 潜在的なトリガーとしてのフィラリア感染の有無を確認します。
- 胸部・腹部レントゲン検査および腎臓超音波検査: 画像診断により、腎臓の大きさや構造を視覚的に評価し、胸水や腹水の有無を確認し、隠れた感染症や腫瘍をスクリーニングします。
- 腎生検(ゴールドスタンダード): 他の検査が糸球体疾患を示唆している場合でも、糸球体腎炎を確定診断し、アミロイドーシスなどの他の腎疾患と区別する唯一の方法は腎生検です。主要な文献に以下のように述べられています。
「組織サンプルは、ルーチンの組織病理学検査、電子顕微鏡検査、および免疫病理学検査に提出されるべきである。腎生検の目的は、基礎にある病態(特定の糸球体腎炎のタイプ、遺伝性腎炎、糸球体硬化症、アミロイドーシス)を特定し、疾患の重症度を判定し、可能であれば予後を予測して特定の治療の指針とすることである。」

腎臓の超音波検査は、獣医師が腎臓の構造を評価し、他の疾患を除外するのに役立ちます。
治療の選択肢
糸球体腎炎の治療は多角的です。タンパク質の喪失を抑え、血圧をコントロールし、血栓を予防し、基礎にある免疫反応を抑制することに焦点を当てます。
第一選択薬
- アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(エナラプリルまたはベナゼプリル): これらの薬剤は、腎臓から出る血管を拡張させることで、糸球体内の圧力を下げ、尿中へのタンパク質漏出量を大幅に減少させます。
- 血小板凝集抑制薬(アスピリン): 極めて低用量で投与されるアスピリンは、尿中への天然の抗凝固タンパク質の喪失を補い、生命を脅かす血栓の形成を予防するのに役立ちます。
第二選択薬
- カルシウム拮抗薬(アムロジピン): ACE阻害薬だけでは高血圧をコントロールできない場合、高血圧による損傷から腎臓、目、脳を保護するためにアムロジピンが追加されることがよくあります。
補助療法および免疫抑制薬
- ループ利尿薬(フロセミド): 重度の浮腫(腫れ)や腹水に苦しむペットにおいて、過剰な体液貯留を排除するために使用されます。
- アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン): 体液貯留を管理し、腎臓組織を損傷する有害なホルモン経路を遮断するために、他の利尿薬と併用されることがよくあります。
- 免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロスポリン、または糖質コルチコイド): 有害な免疫複合体を形成している異常な免疫反応を抑制するために処方されることがあります。ただし、糖質コルチコイドは尿中のタンパク質漏出を悪化させることがあるため、極めて慎重に使用する必要があります。
予後
糸球体腎炎の経過は極めて多様です。一部の犬や猫では、治療を行わずに、あるいは最小限の治療で病態が自然に寛解(消失または安定化)することがあります。また、数ヶ月から数年にわたり、管理された蛋白尿を維持しながら、比較的安定した臨床経過をたどる場合もあります。
しかし残念ながら、一部のペットでは病態が進行性です。積極的な治療にもかかわらず、持続する炎症によって腎臓に不可逆的な瘢痕(線維化)が生じ、数ヶ月から数年の経過で最終的に慢性腎不全へと進行します。治療法を調整し、ペットの生活の質(QOL)を維持するためには、血圧、腎臓の数値、および尿タンパクレベルの定期的なモニタリングが不可欠です。
予防法
一次性糸球体腎炎は免疫介在性の疾患であるため、その発症を直接予防する方法はありません。しかし、既知のトリガーからペットを守ることで、二次性糸球体腎炎のリスクを最小限に抑えることができます。
- 寄生虫予防: フィラリア(犬糸状虫)予防を年間を通じて行い、フィラリア誘発性の腎損傷リスクを排除します。
- マダニ予防: 信頼性の高いマダニ予防薬を使用し、糸球体炎症の既知の引き金であるライム病などの媒介感染症から保護します。
- 迅速な医療ケア: 慢性感染症、歯周病、および炎症性疾患を早期に治療し、これらが慢性的な免疫複合体の産生を刺激するのを防ぎます。
- スクリーニング: 遺伝性腎疾患の素因がある品種では、タンパク漏出を最も治療効果の高い初期段階で発見するために、定期的な尿スクリーニングについて獣医師に相談してください。
獣医師に連絡すべきタイミング
糸球体腎炎は、突然の生命を脅かす合併症を引き起こす可能性があります。以下の危険信号(レッドフラッグ)に気づいた場合は、直ちに獣医師に連絡してください。
- 突然の失明または瞳孔の散大(重度の高血圧の兆候)。
- 呼吸困難、呼吸が速い、または息苦しそうな呼吸(肺の血栓や胸水の貯留を示唆する可能性があります)。
- 四肢、顔、または腹部の突然の腫れ(浮腫)。
- 重度の嘔吐、極度の嗜眠、または完全な廃食(食事を一切受け付けない)(腎不全の悪化の兆候)。
特定の犬種における特徴
特定の犬種には、糸球体疾患との特有の関連性が確認されており、これらは獣医師の診断や治療計画の指針となります。
- ソフトコーテッド・ウィートン・テリア: 食事性タンパク質に対する異常反応に関連している可能性のある、家族性膜性増殖性糸球体腎炎の発生が疑われています。
- ブリタニー・スパニエル: 免疫系の重要な一部である補体第3成分(C3)の遺伝的欠損があり、これが糸球体疾患につながると疑われています。
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ: ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム病の原因菌)の抗体陽性と関連した糸球体腎炎を発症することがよくあります。
- サモエド: X連鎖性優性遺伝性腎炎の影響を受けます。
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル: 常染色体劣性遺伝性腎炎の影響を受けます。
- その他の素因を持つ品種: シャム、オリエンタルショートヘア、シャー・ペイ、ビーグル、ブル・テリア、ドーベルマン・ピンシャー、イングリッシュ・フォックスハウンド、およびアビシニアンにおいても、遺伝的素因が疑われているか、あるいは立証されています。
参考文献
- Textbook of Veterinary Internal Medicine, 5th Edition, pages 692, 696, 1468, 1469.
ハイライトとメモ
症状・兆候
リスクが高い品種
診断方法
- 腎生検標準検査
- Blood pressure measurement
- 全血球計算
- Occult heartworm test
- Plasma fibrinogen and antithrombin concentrations
- 腎臓超音波検査
- Serum biochemical profile
- Thoracic and abdominal radiographs
- 尿検査
- 尿培養
- Urine protein-to-creatinine ratio
治療アプローチ
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
よくある質問
犬と猫の糸球体腎炎:症状、診断、治療法についてとは
糸球体腎炎は、免疫複合体が腎臓の濾過フィルターを損傷する、犬と猫の免疫介在性腎疾患です。尿中への重度のタンパク漏出、高血圧、そして腎不全の進行を引き起こします。症状、診断、治療の選択肢について解説します。
犬と猫の糸球体腎炎:症状、診断、治療法についての症状は
蛋白尿、食欲不振(ご飯を食べない)、元気消失、多飲、多尿、嘔吐(吐く)、体重減少(痩せてくる)、腹水(お腹に水が溜まる)
犬と猫の糸球体腎炎:症状、診断、治療法についてはどのように診断されますか
腎生検、Blood pressure measurement、全血球計算、Occult heartworm test、Plasma fibrinogen and antithrombin concentrations、腎臓超音波検査
犬と猫の糸球体腎炎:症状、診断、治療法についてはどのように治療されますか
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
出典
- Internal Medicine 5th · ページ 692
- Internal Medicine 5th · ページ 1468
- Internal Medicine 5th · ページ 1469
- Internal Medicine 5th · ページ 1469
- Internal Medicine 5th · ページ 696
- Internal Medicine 5th · ページ 1469
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。