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犬と猫の膵炎:症状、原因、診断から治療・予防法まで獣医師が解説

Pancreatitis

別称: Acute pancreatitis, Chronic pancreatitis, Acute-on-chronic pancreatitis

獣医師監修CatDog緊急度: 緊急よくある程度: よくある

ポイント

膵炎は、消化酵素が膵臓内で早期に活性化し、自らの組織を消化(自己消化)してしまうことで発生する、一般的かつ生命を脅かす危険性のある膵臓の炎症性疾患です。軽度のものから、緊急の獣医療を要する重篤な急性状態まで多岐にわたります。

Anatomy diagram showing the pancreas located near the stomach and small intestine in a pet.
The pancreas is nestled closely against the stomach and the first part of the small intestine.

TL;DR. 膵炎は、消化酵素が早期に活性化して膵臓自体を消化(自己消化)してしまうことで起こる、一般的かつ生命を脅かす可能性のある膵臓の炎症性疾患です。

膵臓は胃と小腸の起始部(十二指腸)に密接に隣接しています。

膵炎とはどのような病気か

膵炎は、極めて予測困難な経過をたどる、膵臓の一般的な炎症性疾患です。この病態を理解するには、膵臓が持つ2つの重要な役割を知る必要があります。胃と小腸の起始部(十二指腸)に隣接するこの小さなV字型の臓器には、主に2つの機能があります。第一に、インスリンなどのホルモンを分泌して血糖値を調節する「内分泌腺」としての機能。第二に、食物を分解するための強力な消化酵素を分泌する「外分泌腺」としての機能です。

通常、これらの消化酵素は活性を持たない安全な状態で膵臓内に蓄えられています。そして、膵管を通って小腸に送り出されて初めて活性化し、タンパク質、脂肪、炭水化物を安全に消化します。しかし、膵炎を発症した動物では、この防御機構が破綻します。消化酵素が膵臓の内部に留まっている段階で早期に活性化してしまうのです。これにより、膵臓が自らの組織を消化し始める「自己消化」と呼ばれるプロセスが引き起こされます。

この早期活性化は、激しい炎症の連鎖反応を誘発します。膵炎は主に以下の3つの形態に分類されます。

  • 急性膵炎: 突然発症する重度の炎症で、軽度の一過性の不快感から、生命を脅かす緊急事態まで症状は多岐にわたります。
  • 慢性膵炎: 緩徐かつ持続的に進行する炎症プロセスで、時間の経過とともに膵臓組織に不可逆的な線維化(瘢痕化)をもたらし、正常な機能を失わせます。
  • 再発性急性膵炎: 見かけ上の回復期を挟みながら、急激な悪化(急性増悪)を繰り返す病態です。

膵炎は重篤な全身性合併症を引き起こすリスクがあるため、飼い主がこの病気を正しく理解することは極めて重要です。最も重篤な形態(壊死性膵炎)では、激しい炎症が膵臓を越えて広がり、周囲の臓器を損傷させ、全身性の凝固異常(播種性血管内凝固:DIC)を引き起こし、ショックや多臓器不全に至ることがあります。

原因とリスク要因

獣医療において、膵炎の大部分は「特発性(原因不明)」に分類されます。しかし、研究により、発症リスクを著しく高めるいくつかの重要なリスク要因、引き金(トリガー)、および併発疾患が明らかになっています。

薬剤による誘発

特定の薬剤は、犬において膵臓の炎症を誘発することが知られています。愛犬が新しい薬を飲み始めたばかりの場合は、これらのリスクについて獣医師と相談することが重要です。主な誘発薬には以下のようなものがあります。

  • 臭化カリウム: 主に抗てんかん薬として使用されます。
  • アザチオプリン: 様々な自己免疫疾患の治療に用いられる免疫抑制剤です。
  • アスパラギナーゼ: 特定のがん治療に用いられる抗がん剤(化学療法薬)です。

併発する内分泌疾患

犬において、基礎にあるホルモンバランスの異常は、重篤かつ致死的な膵炎の発症リスクを劇的に高めます。獣医師は、以下のような既往歴がないか慎重に確認します。

  • 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの分泌が不足する疾患です。
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群): コルチゾールが過剰に産生される疾患です。
  • 糖尿病: 血糖値の調節が正常に行えなくなる代謝疾患です。

猫においては、炎症性腸疾患(IBD)や肝胆道系疾患など、膵炎と併発しやすい疾患(いわゆる三管子炎の文脈など)の有無が重要な確認事項となります。

犬種および遺伝的素因

年齢や犬種・猫種を問わず、どの動物でも膵炎を発症する可能性はありますが、特定の犬種では発症リスクが有意に高いことが知られています。これらの遺伝的素因については、本記事の後半で詳しく解説します。

注意すべき臨床症状

膵炎の臨床症状は、犬と猫で大きく異なる場合があります。犬は腹部疼痛や消化器症状を比較的はっきりと示す傾向がありますが、猫は元気がなくなる、食欲が落ちるなど、漠然とした非特異的な症状しか示さないことで知られています。

一般的な症状

  • 脱水: 嘔吐による水分の喪失や、炎症を起こした腹腔内への水分の移動(サードスペースへの貯留)によって起こります。
  • 食欲廃絶(完全な食欲喪失): 食事を一切受け付けなくなります。
  • 腹部疼痛: 多くは激しい痛みで、抱っこされるのを嫌がる、鳴く、お腹の筋肉を硬く緊張させるなどの様子が見られます。
  • 嘔吐: 頻回かつ重度の嘔吐が見られ、特に犬で顕著です。
  • 沈鬱・元気消失: 極度の衰弱、元気がなくなる、動きたがらないなどの状態に陥ります。

時折見られる症状

  • 祈りの姿勢(プレイング・スタンス): 前肢を床に平らに伏せ、後肢を立たせたままにする特徴的なポーズです。これは上腹部の激しい痛みを和らげようとする直接的な反応です。
  • 食後の不快感: 食後すぐに、目に見える痛み、そわそわする様子、あるいは鳴くなどの行動が見られます。
  • 黄疸: 炎症を起こした膵臓が隣接する総胆管を圧迫することにより、歯肉、白目、皮膚が黄色く染まります。
  • 鮮血便: 便に鮮紅色の血液が混じります。
  • 裏急後重(しぶり): 便が出ないにもかかわらず、排便の姿勢をとり続けます。
  • ショック: 粘膜の蒼白、心拍数の増加、四肢の冷感、虚脱などを特徴とする極めて危険な状態です。

稀に見られる症状

  • 斑状出血および点状出血: 皮膚や歯肉に見られる大きな青あざやピンポイントの赤い斑点で、生命を脅かす重篤な凝固異常(DIC)を示唆します。
  • 呼吸困難・呼吸促迫: 呼吸が速く、苦しそうになる状態で、炎症プロセスが肺にまで波及している可能性(急性呼吸窮迫症候群など)を示します。

前肢を床に伸ばし、後肢を立てた状態でストレッチをする犬
「祈りの姿勢(プレイング・スタンス)」は、犬における重度の腹部疼痛を示す典型的なサインです。

獣医師による診断方法

膵炎の診断は極めて困難を極めることがあります。膵炎の症状は他の多くの腹部疾患と重複するため、獣医師は系統的な検査を進める必要があります。主要な獣医内科学の専門書には以下のように述べられています。

「犬の膵炎において、感度と特異度がともに100%である非侵襲的検査は単一では存在しない……」

診断における最大の課題の一つは、膵炎と他の「急性腹症」、特に生命を脅かす腸管異物や閉塞とを鑑別することです。慎重な診断プロセスを経ずに、膵炎による重度の嘔吐を腸閉塞と誤認してしまうと、すでに全身状態が不安定な患者に対して不要な開腹手術(試験開腹)を行うことになり、重大なリスクを伴うことになります。

クリニックで毛を刈った犬の腹部に超音波プローブを当てる獣医師
腹部超音波検査は、膵臓の炎症や浮腫を特定するための極めて特異性の高いツールです。

確実な診断に至るため、獣医師は以下の検査を組み合わせて実施します。

  • 経皮的超音波検査(エコー検査): 最も有用な非侵襲的検査の一つです。特異度が高く、超音波画像で膵臓に病変が確認された場合、実際に膵炎である可能性が極めて高いと判断できます。ただし、感度は検査を行う獣医師の技術や疾患の重症度によって左右されます。典型的な急性症例では、膵臓の腫脹(浮腫)や周囲の脂肪組織の壊死(膵周囲脂肪壊死)が明瞭な画像変化として現れるため、非常に高い検出力を発揮します。
  • 猫膵特異的リパーゼ(fPLI)検査: 猫の膵臓の炎症を検出するために用いられる、極めて特異性の高い血液検査です。
  • 膵臓生検および病理組織学的検査: 確定診断におけるゴールドスタンダード(確実な診断基準)です。低侵襲な腹腔鏡手術の際に、特殊な生検鉗子を用いて安全に組織を採取することができます。しかし、全身状態が不安定な患者にとって麻酔や手術はリスクを伴うため、診断が極めて困難な場合を除き、日常の臨床現場で生検が選択されることは多くありません。
  • 超音波ガイド下細針吸引(FNA)細胞診: 超音波で確認しながら、膵臓に細い針を直接穿刺して細胞サンプルを採取し、顕微鏡で評価する検査です。
  • 腹水解析: 炎症によって腹水が貯留している場合、その液体を採取・分析して、他の原因による腹膜炎を除外します。

治療の選択肢

膵炎を直接「完治」させる単一の特効薬は存在しません。そのため、獣医療における治療は、動物の体を支持し、痛みをコントロールし、合併症を管理しながら、膵臓が自然に回復する時間を稼ぐ「支持療法」が中心となります。治療の強度は、病態が急性か慢性か、また軽度か重度かによって大きく異なります。

第一選択となる支持療法

急性または重症の症例では、入院治療が不可欠です。一般的に以下の治療が行われます。

  • 静脈内輸液療法: 脱水を補正し、電解質バランスを整え、炎症を起こしている膵臓への微小循環(血流)を維持します。
  • 疼痛管理: 膵炎は非常に強い痛みを伴う疾患です。動物の苦痛を和らげるため、獣医療専用の強力な鎮痛薬(オピオイドなど)が使用されます。
  • 栄養管理: 胃腸の運動性を維持することは極めて重要です。重度の吐き気で自発的な食事が摂れない場合は、一時的に経鼻胃管などの給餌チューブを設置したり、高度な制吐薬を投与したりします。

第二選択および補助的療法

患者の病態や併発疾患の有無に応じて、以下のような標的治療が追加されることがあります。

  • メトロニダゾール: 腸内細菌の二次的な過剰増殖を抑え、あるいは併発している胃腸疾患を治療するために、この抗菌・抗原虫薬が使用されることがあります。
  • シアノコバラミン(ビタミンB12): 特に慢性膵炎の猫や犬において強く推奨される栄養補助療法です。慢性的な腸や膵臓の炎症は、食事からのビタミンB12の吸収力を著しく低下させ、回復を阻害する深刻な欠乏症を引き起こすため、定期的な補充が必要となります。
  • インスリン療法: 炎症プロセスによって膵臓の内分泌部(インスリンを産生するランゲルハンス島β細胞)が破壊された場合、一時的または永久的な糖尿病を発症することがあります。この場合、血糖値を管理するために毎日のインスリン投与が必要になります。
  • 膵酵素製剤: 慢性かつ進行性の膵炎によって外分泌部が破壊されると、食物を正常に消化できなくなる「膵外分泌不全(EPI)」に陥ります。栄養素を適切に吸収できるようにするため、毎日の食事に消化酵素の粉末を直接添加する必要があります。

予後

膵炎の予後は極めて多様であり、疾患の重症度および治療開始の迅速さに完全に依存します。

  • 軽度〜中等度の急性膵炎: 一般的に予後は良好です。迅速かつ積極的な支持療法と適切な疼痛管理により、ほとんどのペットが完全に回復します。
  • 重度の急性膵炎: 死亡率は極めて高くなります。これらの症例では、二次診療施設や救急ICUでの24時間体制の集中治療が必要です。胸水や腹水の貯留、重篤な凝固異常、多臓器不全などの全身性合併症を併発している場合、予後は慎重〜不良となります。
  • 慢性膵炎: 短期的な死亡リスクは一般的に低いとされています。しかし、進行性かつ不可逆的な疾患であるため、長期的には膵外分泌不全(EPI)や糖尿病を続発するリスクが高く、これらの二次的疾患に対する生涯にわたる管理が必要となります。

予防法

膵炎の多くは特発性であるため、完全に予防することは困難です。しかし、以下の対策を講じることで、発症リスクを最小限に抑えることができます。

  • 併発疾患の徹底的な管理: 甲状腺機能低下症、クッシング症候群、糖尿病などの基礎にある内分泌疾患について、獣医師の指導のもとで厳格にコントロールを行ってください。
  • 既知の誘発薬の回避: 臭化カリウム、アザチオプリン、アスパラギナーゼなどの薬剤が処方されている場合は、事前にリスクを把握し、消化器症状の初期サインがないか注意深く観察してください。
  • 食事管理の徹底: 高脂肪の人の食べ物(テーブルスクラップ)を与えたり、急激にフードを変更したりすることは、特に犬において急性膵炎を引き起こす臨床的なトリガーとして広く知られているため、厳に避けてください。

獣医師に連絡すべきタイミング

膵炎は、緊急度評価において「5段階中5(最優先の緊急事態)」に該当する医療緊急事態です。愛犬・愛猫に膵炎の疑いがある場合は、様子を見て自然に治るのを待つようなことは決してしないでください。

以下の危険兆候(レッドフラッグ)が一つでも見られた場合は、すぐに獣医師または夜間救急動物病院に連絡してください。

  • 頻回かつ重度の嘔吐、または水を飲んでもすぐに吐き出してしまう
  • 極度の虚脱、衰弱、またはぐったりして立ち上がれない
  • 激しい腹痛の兆候(鳴く、触るとお腹を硬くする、または「祈りの姿勢」をとる)
  • 歯肉、皮膚、または白目が黄色くなる(黄疸)
  • 呼吸が速い、浅い、または息苦しそうにしている(呼吸困難)
  • 血便が出る、または排便姿勢をとるのに便が出ない(しぶり)

特定の犬種・猫種における注意点

いくつかの犬種・猫種では、膵炎の遺伝的素因(感受性)が報告されています。以下の品種を飼育されている場合は、特に注意深い観察が必要です。

  • ミニチュア・シュナウザー: 遺伝的素因が強く疑われており、臨床的根拠も豊富です。これらの犬種では、潜在的な脂質代謝異常(高脂血症)を伴っていることが多くあります。
  • イングリッシュ・コッカー・スパニエル: 遺伝的素因が強く疑われており、慢性膵炎の形で発症することが多くあります。
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル: 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。
  • シベリアン・ハスキー: 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。
  • グレイハウンド: 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。
  • コリー: 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。
  • ボクサー: 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。
  • アメリカン・ショートヘア(猫): 遺伝的素因が報告されていますが、正確な遺伝形式は未だ解明されていません。

参考文献

  • Small Animal Internal Medicine, 5th Edition, pages 633, 636, 641, 642, 649.
  • Small Animal Critical Care Medicine, 2nd Edition, page 667.

ハイライトとメモ

症状・兆候

リスクが高い品種

診断方法

  • Pancreatic biopsy and histopathology標準検査
  • Cytology of ultrasonography-guided transcutaneous fine-needle aspirates
  • Feline pancreatic lipase immunoreactivity (fPLI)
  • Fluid analysis of abdominal effusion
  • Laparoscopy
  • Transcutaneous ultrasonography

治療アプローチ

治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。

よくある質問

犬と猫の膵炎:症状、原因、診断から治療・予防法まで獣医師が解説とは

膵炎は、消化酵素が膵臓内で早期に活性化し、自らの組織を消化(自己消化)してしまうことで発生する、一般的かつ生命を脅かす危険性のある膵臓の炎症性疾患です。軽度のものから、緊急の獣医療を要する重篤な急性状態まで多岐にわたります。

犬と猫の膵炎:症状、原因、診断から治療・予防法まで獣医師が解説の症状は

食欲不振(ご飯を食べない)、脱水、元気消失、嘔吐(吐く)、腹痛(お腹の痛み)、黄疸 / 白目が黄色い / 皮膚が黄色い / 尿が濃い黄色、食後不快感 / 食べた後苦しそう / ご飯の後に痛がる / 食後にぐったりする、祈りの姿勢 / お祈りのポーズ / 伸びをする姿勢 / 前足を伏せてお尻を上げる

犬と猫の膵炎:症状、原因、診断から治療・予防法まで獣医師が解説はどのように診断されますか

Pancreatic biopsy and histopathology、Cytology of ultrasonography-guided transcutaneous fine-needle aspirates、Feline pancreatic lipase immunoreactivity (fPLI)、Fluid analysis of abdominal effusion、Laparoscopy、Transcutaneous ultrasonography

犬と猫の膵炎:症状、原因、診断から治療・予防法まで獣医師が解説はどのように治療されますか

治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。

出典

  1. Internal Medicine 5th · ページ 642
  2. Internal Medicine 5th · ページ 636
  3. Internal Medicine 5th · ページ 633
  4. Internal Medicine 5th · ページ 649
  5. Internal Medicine 5th · ページ 641
  6. Small Animal Critical Care Medicine, 2nd Edition (VetBooks.ir) · ページ 667

この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。

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