犬と猫の移行上皮癌(TCC)
Transitional cell carcinoma
別称: TCC
Transitional cell carcinoma
別称: TCC
ポイント
移行上皮癌(TCC)は、犬と猫の尿路(主に膀胱や尿道)に発生する浸潤性の高い悪性腫瘍です。腫瘍細胞の播種(転移)を防ぐため、診断には極めて慎重なアプローチが求められます。

TL;DR. 移行上皮癌(TCC)は、犬と猫の尿路に発生する極めて浸潤性の高い悪性腫瘍であり、腫瘍細胞の偶発的な播種を防ぐために専門的な診断アプローチを必要とします。

TCCは、尿の出口にあたる膀胱頸部(膀胱三角部)に最も多く発生します。
移行上皮癌(TCC)は、尿路の内腔を覆う特殊な伸縮性のある細胞層である「移行上皮」から発生する、極めて悪性度の高い腫瘍です。この上皮組織は、尿の貯留と排泄に伴って膀胱や関連する尿管・尿道が伸縮することを可能にしています。これらの細胞が悪性化すると腫瘍が形成され、尿路壁の深層へと攻撃的に浸潤していきます。
TCCは理論上、尿路のどの部位にも発生する可能性がありますが、最も頻繁に検出されるのは膀胱頸部(膀胱三角部と呼ばれる領域)、膀胱背側壁、または尿道です。その発生部位の特性上、腫瘍は物理的な閉塞を引き起こしやすく、尿道壁を肥厚させ、正常な排尿を妨げます。進行すると、腎臓から膀胱への尿の流れが遮断され、尿が腎臓に逆流して滞留するという危険な状態を招くおそれがあります。
TCCの最も特徴的かつ臨床上厄介な性質の一つは、腫瘍細胞の「播種(はしゅ)」、すなわち移植性の高さです。他の一般的な腫瘍で行われるように、腹壁から腫瘍に向けて直接注射針を刺して細胞を採取しようとすると(穿刺吸引生検)、がん細胞が針の経路に付着し、その経路に沿って腫瘍が移植されてしまうリスクがあります。この播種リスクがあるため、TCCの診断プロセスには細心の注意を払う必要があります。
多くのがんと同様に、TCCの発生原因も単一ではありません。遺伝的素因と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。膀胱粘膜への慢性的な刺激は、細胞の異常な変化を誘発する要因となります。例えば、膀胱結石(尿石症)の存在は、繊細な移行上皮に対して持続的な機械的刺激を与え続けます。
また、特定の医療行為がこれらの細胞に変化をもたらすこともあります。シクロホスファミドなどの特定の抗がん剤への曝露は、膀胱粘膜に刺激を与え、異常な細胞増殖(軽度から中等度の異型性を伴う上皮増殖)を引き起こすことが知られており、これが診断を困難にしたり、腫瘍の発生に影響を与えたりする可能性があります。
さらに、特に犬においては遺伝的要因が強く関与しています。特定の犬種では、一般的な犬の集団と比較してTCCの発症率が統計学的に有意に高いことが示されています。猫におけるTCCの発生は極めて稀ですが、やはり特定の品種でリスクの上昇が認められています。
TCCの初期症状は、一般的な尿路感染症(UTI)や膀胱結石の症状と酷似しているため、初期段階で誤診されることが少なくありません。標準的な抗生物質治療を行っても改善しない尿路症状がみられる場合は、TCCを疑う必要があります。

排尿時のしぶりはTCCの最も一般的な症状の一つであり、尿路感染症と誤認されることがよくあります。
TCCの診断には、腫瘍細胞の播種を回避しつつ、がんの存在を確定させるための慎重かつ段階的なアプローチが必要です。
獣医師はまず尿検査を実施します。顕微鏡下での観察(尿沈渣細胞診または乾燥塗抹沈渣細胞診)により、異常細胞や炎症マーカーの有無を調べます。ただし、尿検査のみで確定診断に至ることは稀です。獣医細胞診の主要な教科書には以下のように記載されています。
「尿石症や一部の化学療法剤(シクロホスファミドなど)は、軽度から中等度の異型性を伴う上皮増殖を誘発することがある。…移行上皮癌の動物の尿沈渣からは、様々な数の上皮細胞や白血球が検出される。」
感染や結石による炎症によっても、正常な細胞が異常(異型)に見えることがあるため、常にさらなる検査が必要となります。
腹部超音波検査は、膀胱および尿道を可視化するための主要な画像診断ツールです。TCCの腫瘍塊は、超音波画像上で特徴的な像を示します。小動物超音波診断学の代表的な教科書には以下のように記述されています。
「エコー輝度は混在していることが多く、全体として低輝度から中等度の輝度を呈する。一部が石灰化していることもあり、結石と誤認される場合がある。腫瘍塊は、膀胱頸部(三角部)領域および膀胱背側壁に最も多く認められる…」
腫瘍が尿道に浸潤している場合、超音波検査において「尿道壁の低エコー性肥厚」や、内腔に沿った強い反射を示す輝線(音響陰影を伴わない高エコー性の粘膜ライン)が観察されることがあります。

超音波検査は、膀胱壁の肥厚や腫瘍塊を特定するための主要な診断ツールです。
腫瘍塊がTCCであるかどうかを確定するには、組織または細胞サンプルの採取が不可欠です。しかし、腫瘍播種のリスクが非常に高いため、皮膚から膀胱へ直接針を刺す経皮的穿刺吸引生検(FNA)は避けるべきです。獣医内科学の権威ある文献には以下のように述べられています。
「したがって、犬に切除可能な可能性のある膀胱頂部の腫瘍塊がある場合、著者は経皮的FNAは行わず、経尿道的な超音波ガイド下カテーテル吸引生検を選択する。」
針を使用する代わりに、以下のような安全な代替法を用いて細胞を採取します。
なお、カテーテルを用いたサンプリングでは、一時的な膀胱内出血(一過性の血尿)が生じるリスクがわずかに存在します。
TCC治療の主な目的は、快適な排尿管理を維持し、痛みをコントロールし、腫瘍の進行を遅らせることにあります。
注:本情報には具体的な薬剤名や化学療法のプロトコルは記載されていません。個々の症例に応じた最新の治療選択肢については、かかりつけの獣医師または獣医腫瘍科医にご相談ください。
TCCは膀胱三角部(尿の出口である膀胱頸部)に発生することが多いため、外科的な完全切除が適応となるケースは極めて稀です。この領域を切除するには尿路全体の再建が必要となり、術後合併症の発生率が非常に高いためです。ただし、腫瘍が膀胱の最上部(膀胱頂部)に局在している場合に限り、膀胱の部分切除術が検討されることがあります。
獣医腫瘍科において、TCCは通常、複数の内科的治療を組み合わせて管理されます。これには、犬のTCCに対して直接的な抗腫瘍効果を示すことが証明されている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与や、様々な化学療法プロトコルが含まれます。
腫瘍が治療にどのように反応しているかを評価するためには、定期的な通院と超音波検査によるモニタリングが不可欠です。獣医学文献において「特にがん患者における治療反応のモニタリングは有用である」とされている通り、現在の治療が腫瘍の進行を効果的に抑えられているか、あるいは治療方針の変更が必要かを判断するために重要です。
犬や猫におけるTCCの長期予後に関するデータは限られており、一般に本病態は進行性で治療が困難な疾患とされています。浸潤性が極めて高いため、完全な治癒(根治)は困難です。しかし、炎症を抑え、二次的な尿路感染症を防ぎ、尿路の開通性を維持する適切な内科的管理を行うことで、多くのペットが数ヶ月、あるいはそれ以上の期間にわたり、良好な生活の質(QOL)を維持することができます。
治療を行わない場合、腫瘍は最終的に尿道や尿管を完全に閉塞させ、生命に関わる状態に陥ります。愛犬・愛猫のQOLを高く保つために、獣医師と緊密に連携し、快適さ、食欲、排尿状態を注意深く観察していく必要があります。
犬や猫の移行上皮癌を確実に予防する方法は確立されていません。発症原因が多因子にわたるため、予防対策は「早期発見」に焦点を当てることになります。
好発品種を飼育している場合は、健康診断の一環として積極的なスクリーニングについて獣医師に相談してください。これには、中年期以降から定期的な尿検査を行い、潜血、白血球、または異型上皮細胞の有無を確認し、異常が認められた場合には超音波検査による精査を行うことが含まれます。
排尿習慣に変化が見られた場合、特に過去に尿路感染症の治療を受け、その症状が再発したような場合には、速やかに獣医師に連絡してください。
以下の症状が見られる場合は、直ちに救急外来を受診してください。
TCCはどのような犬や猫にも発生する可能性がありますが、以下の品種では遺伝的な好発傾向が確認されています。
これらの品種を飼育している場合は、生涯を通じて排尿状態に細心の注意を払い、変化があればすぐに獣医師に相談してください。
移行上皮癌(TCC)は、犬と猫の尿路(主に膀胱や尿道)に発生する浸潤性の高い悪性腫瘍です。腫瘍細胞の播種(転移)を防ぐため、診断には極めて慎重なアプローチが求められます。
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この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。