猫の耳ダニと耳の感染症:早期発見と正しい対処法
猫の耳の感染症は犬に比べて非常に稀であり、発症には必ず根本的な原因があります。子猫の耳ダニ、片側性の症状に隠れたポリープや異物、そして中耳炎を示す頭の傾きや眼振など、見逃せない初期の行動サインと、受診前に耳掃除をしてはいけない理由を専門獣医師が解説します。

クイック回答
猫の耳のトラブルの多くは、耳道の中を覗き込むことではなく、普段と違う行動に気づくことで発見されます。
猫は犬に比べて耳の感染症(外耳炎など)にかかることが非常に少ない動物です。そのため、猫の耳に感染症が起きている場合、そこには必ず何らかの根本的な原因が隠れています。単に感染症の治療を行うことよりも、その「原因」を突き止めることの方がはるかに重要です。
子猫や、多頭飼育、シェルター、屋外での生活歴がある猫の場合、原因の多くは「耳ダニ(ミミヒゼンダニ)」です。一方、単頭飼育の大人の猫で、片方の耳だけがひどく悪化している場合は、ポリープ、異物、あるいは腫瘍などの可能性が高くなります。
- 耳ダニは激しい痒みを伴い、通常は両耳に発生します。猫、犬、フェレットの間で容易に感染が広がります。
- 成猫の片耳だけに症状が出るケースは、子猫の両耳に症状が出るケースとは全く異なる問題(原因)です。
- 黒っぽい耳垢(分泌物)があるからといって、必ずしも耳ダニとは限りません。耳ダニ、真菌(マラセチアなど)、細菌による耳垢は見た目が酷似していますが、それぞれ異なる治療薬が必要です。
- 頭を振り、耳から異臭がする猫に必要なのは、自宅での耳掃除ではなく、獣医師による診察です。
- 頭の傾き(斜頸)、同じ場所をぐるぐる回る(旋回)、ふらつき、あるいは眼球が小刻みに揺れる(眼振)といった症状は、問題が中耳や内耳にまで達しているサインです。これらは当日の緊急受診が必要です。
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自己判断で、手元にある薬を使って耳の感染症を治療しようとしないでください。
鼓膜が損傷している場合(感染症、ポリープ、異物はすべて鼓膜を傷つける可能性があります)、耳用洗浄液や多くの耳科用薬が中耳にまで達してしまい、永久的な難聴や深刻な平衡感覚障害を引き起こす恐れがあります。
過去の治療で残った点耳薬、犬用に処方された薬、あるいは処方箋なしで購入した市販薬などは、現在発生している病原体に合っていない可能性が高く、誤った薬を使用することで適切な治療が遅れ、耳の状態をさらに悪化させる原因になります。
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- 対象動物
- 猫
- カテゴリ
- 健康・医療
- リスクレベル
- 中
- 主な内容
- 猫の耳疾患の原因と、飼い主が気づくべき初期サイン
- 子猫における最も一般的な原因
- 耳ダニ(ミミヒゼンダニ)
- 緊急受診の目安
- 頭の傾き、旋回、ふらつき、眼球の揺れ(当日受診)
60秒で判断するチェックシート
| 見られる症状 | 今すぐすべき行動 |
|---|---|
| たまに耳をかく程度、耳は清潔で無臭 | 正常です。週に1回の耳のチェックを継続してください。 |
| 両耳に黒く乾燥したカサカサした耳垢があり、猫が頻繁に耳をかいている | 今週中に受診予約を。同居しているすべての猫や犬の治療についても獣医師と相談してください。受診前に耳掃除はしないでください。 |
| 片耳だけに耳だれや臭いがあり、もう片方は正常 | 今週中に受診予約を。猫の片側性の耳疾患は、ポリープ、異物、または腫瘍の可能性が高まります。 |
| 外に出る猫が、突然激しく頭を振るようになった | 至急受診を。草の種などの異物は自然に排出されません。 |
| 耳の付け根や首回りに、かさぶたや切れ毛がある | 今週中に受診予約を。飼い主が気づくよりもずっと前から、猫は耳を気にし続けていた証拠です。 |
| 耳介がクッションのように柔らかく温かく腫れている | 速やかに受診を。腫れの治療と同時に、それを引き起こした原因である耳の病気の治療が必要です。 |
| 頭が傾いている、ぐるぐる回る、片側に倒れる、眼球が小刻みに揺れる | 当日受診。中耳または内耳の疾患が強く疑われます。 |
| 片側のまぶたが下がり、瞳孔が小さくなっている。耳のトラブルも併発している | 当日受診。両方の症状を合わせて獣医師に伝えてください。 |
| 耳が聞こえなくなっている、または音に反応しなくなった | 速やかに受診を。これまでに耳に使用したすべての製品(洗浄液や薬)を獣医師に伝えてください。 |
猫は「小さな犬」ではない理由
犬の診療において、繰り返す外耳炎は日常茶飯事です。しかし、猫の診療においてはそうではありません。この違いこそが、診断において非常に重要な手がかりとなります。
犬は解剖学的な特徴やアレルギー体質により、耳の感染症を繰り返し起こしやすい傾向があります。しかし、猫にはそのような傾向はほとんどありません。したがって、猫が耳の炎症や耳だれを起こして来院した場合、単に「何の細菌が増殖しているか」だけでなく、「なぜ細菌が増殖する環境になってしまったのか」という根本的な疑問を持つ必要があります。
だからこそ、猫の耳の診察では、検耳鏡での観察、耳垢の顕微鏡検査、そして治療への反応が悪い場合には画像検査を行うことが標準的なプロセスとなります。原因を追究せずに猫の耳の感染症を治療しようとすると、ポリープや異物などの重大な原因を何ヶ月も見落とすことになりかねません。
耳ダニ(ミミヒゼンダニ)
耳ダニ(ミミヒゼンダニ)は、猫における最も一般的な感染性の原因であり、特に子猫においては圧倒的な割合を占めます。
このダニは耳道の表面に生息し、皮膚に穴を掘って潜ることはありません。皮膚の破片や組織液をエサとし、激しい炎症反応を引き起こします。そのため、感染した猫は、見た目の病変の程度から想像するよりもはるかに強い痒みを感じます。
【見た目の特徴と症状】 乾燥した、濃い茶色または黒色のカサカサした耳垢が、多くの場合両耳に見られます。頻繁に耳をかいたり、頭を振ったりします。耳の後ろや首回りに、引っ掻き傷やかさぶたができることもあります。重度感染の場合、痒みが広がり、頭部や首全体を過剰にグルーミングするようになります。
【感染しやすい猫】 子猫、同じ母猫から生まれた兄弟、保護猫、シェルターやコロニーの猫、野外で生活していた猫など。完全室内飼育の成猫であっても、新しく迎えた猫や同居犬から感染することがあります。
【1頭だけの治療が失敗する理由】 耳ダニは接触によって動物間で容易に移動します。治療を終えた猫であっても、未治療の猫や犬と一緒に寝ていれば、数日以内に再感染してしまいます。症状が出ていない個体も含め、同居しているすべての猫、犬、フェレットを獣医師の指導のもとで同時に治療する必要があります。
【人への影響】 耳ダニは稀に人の皮膚に一時的な痒みや発疹を引き起こすことがありますが、人の体で繁殖することはありません。もし家の中で複数の動物と人間が同時に痒がっている場合は、獣医師と人間の医師の両方に相談してください。
【治療法】 獣医師が選択した処方薬(駆虫薬)を、指示されたスケジュール通りに投与します。耳掃除だけでダニを駆除することはできません。また、市販の点耳薬は耳ダニに対して効果がないことが多々あります。
ダニが死滅した後も、炎症反応が治まるまでしばらく痒みが続くことがあります。自己判断で「治療が失敗した」と思い込み、相談なしに別の薬を使用するのは避けてください。
点耳薬だけでは治らない原因
【炎症性ポリープ】 中耳の粘膜、または中耳と喉をつなぐ管(耳管)から発生する良性の腫瘍です。若い猫に最も多く見られます。ポリープが外側(耳道)に向かって成長すると、耳道を塞ぎ、片側の耳だれ、頭振り、時には耳の入り口にピンク色の塊が見えるようになります。逆に喉の奥に向かって成長すると、呼吸時の異音(喘鳴)、いびき、くしゃみ、あるいは飲み込みにくさ(嚥下困難)などを引き起こします。ポリープは外科手術によって切除する必要があります。点耳薬をいくら繰り返しても根本的に治ることはありません。治療中だけ改善し、薬をやめるとすぐに再発する猫は、ポリープの存在を疑うべきです。
【異物】 夏場に外に出る猫において、草の種やノギ(芒)は典型的な原因です。症状は突然かつ片側性に現れます。1時間前まで元気だった猫が、突然激しく頭を振る、耳を前足で引っ掻く、明らかに苦痛そうな様子を見せる、といった行動をとります。草の種は耳道の奥へと入り込み、鼓膜を破ることもあります。除去自体は比較的容易ですが、通常は鎮静処置が必要です。
【耳道内の腫瘍や嚢胞】 高齢の猫では、耳道の粘膜に暗色で水ぶくれのような嚢胞状の腫れが生じることがあります。また、頻度は低いですが耳垢腺の腫瘍が発生することもあります。高齢猫の耳道内に塊(マス)が見られる場合は、点耳薬で様子を見るのではなく、詳しい検査が必要です。
【アレルギー性およびその他の皮膚疾患】 犬に比べると猫では稀ですが、実際に起こります。耳の症状だけでなく、顔や首など他の部位の痒みを伴うのが一般的です。
【全身性疾患】 病気や免疫抑制剤の使用により免疫力が低下している猫は、健康な猫なら自然に排除できる病原体を排除できなくなります。
病変が奥深くに達した場合
中耳と内耳は鼓膜の奥に位置しています。病変がここに達すると、外耳炎とは異なる、見逃せない一連の症状が現れます。これらの症状が見られた場合は、当日の受診が必要です。
【頭の傾き(斜頸)】 頭が常に片側に傾いた状態になります(通常は患側、つまり病気がある側に傾きます)。
【平衡感覚の喪失】 同じ場所をぐるぐる回る(旋回)、よろめく、体が傾く、片側に倒れる、まっすぐ歩けないなどの症状が出ます。
【眼球の不自然な動き(眼振)】 眼球が規則的に、多くは左右に小刻みに揺れます。これは猫が自分の意志で行っている行動ではなく、常に重大な神経症状を示しています。
【吐き気】 めまい(眩暈)により、よだれを垂らす、食事を拒絶する、嘔吐するなどの症状が現れます。
【片側のまぶたの下垂、瞳孔の縮小、瞬膜の露出、眼球の軽度の陥没】 これらの一連の症状(ホルネル症候群)は、中耳を通る神経が障害されることで起こります。耳の病気を持つ猫にこれらの症状が見られる場合、鼓膜の奥で深刻な事態が起きていることを強く示唆しています。
【顔面神経麻痺】 片側の唇や耳が垂れ下がる、あるいは片方の目がうまく瞬きできなくなります。
こうした症状を示す猫には画像検査が必要になることが多く、治療期間も単純な外耳炎より長引き、複雑になります。早期に受診することが、猫の聴力と平衡感覚を守る鍵となります。
これらすべての前に現れる初期サイン

記録こそが診断の助けになります。頭を振る頻度、どちらの耳か、いつ何を使用したかを明確に伝えることで、推測に頼る必要がなくなります。
猫は不調を隠すのが非常に上手な動物です。そのため、飼い主が気づくべき初期サインは、日常のささいな行動の変化に現れます。
【頭振りが癖になっている】 起床時に1回振るだけでなく、1日を通して何度も頭を振るようになります。
【後ろ足で耳の後ろを繰り返し掻く】 その結果として、耳の付け根の毛が切れたり、かさぶたができたり、毛が薄くなったりしていないか確認してください。
【片方の耳を少し下げている、または片耳だけを頻繁にピクピク動かす】 耳道の中に目に見える異常が現れる前から、猫はこのような仕草を見せます。
【その側の頭を撫でようとすると避ける】 これまで耳の付け根を撫でられるのが大好きだった猫が、触ろうとすると頭を引っ込めるようになるのは、痛みのサインです。
【掃除してもすぐに耳垢が溜まる】 耳掃除をしてから数日後にまた耳が汚れている場合、耳掃除を繰り返すことが解決策ではありません。耳垢を作り出している根本的な原因があります。
【寝相の変化】 痛む側の耳を下にして寝なくなる猫もいます。
【普段と違う臭い】 猫の耳のトラブルは、目に見える前に臭いで気づくことがよくあります。健康な猫の耳は完全に無臭です。
受診時の検査内容
両耳の検耳鏡検査が行われ、鼓膜の状態確認が試みられます。痛みが強い猫の場合、鎮静処置が必要になることがありますが、これは過剰な処置ではありません。嫌がって暴れる猫の耳の奥を正確に観察することは不可能ですし、不完全な検査ではポリープや異物を見落とす原因になります。
耳垢を採取して顕微鏡検査(スワブ検査)を行います。これにより、使用する治療薬が決定します。
同居しているすべての動物に関する質問をされることを想定しておいてください。
治療への反応が悪い場合、片側性の症状が持続する場合、あるいは平衡感覚の異常や顔面の神経症状が見られる場合は、画像検査(レントゲンやCTなど)を提案されることがあります。
絶対にやってはいけないこと
過去の治療で残った点耳薬、他の猫の薬、あるいは犬用の薬を絶対に使用しないでください。
診断を受けずに、耳ダニが疑われるからといって市販の耳薬を購入して使用しないでください。多くの市販薬は耳ダニに効果がなく、実際にはポリープや異物が原因だった場合に、適切な治療が何週間も遅れることになります。
痛みや耳だれがある耳を、自宅で洗浄したり掃除したりしないでください。
オイル、酢、オキシドール(過酸化水素水)、その他いかなる民間療法も行わないでください。これらは耳ダニを駆除できないばかりか、炎症を起こしている組織を著しく損傷します。
耳ダニと診断された際、痒がっている猫だけを治療するのはやめてください。未治療の同居動物がダニの温床(リザーバー)となります。
頭の傾きやふらつきを「数日様子を見れば治るだろう」と放置しないでください。
臭いが消えたからといって、完治したと自己判断しないでください。獣医師に処方された薬は最後まで使い切り、必ず再診を受けてください。表面上はきれいに見えても、目に見えない耳道の奥深くではまだ炎症が続いていることがよくあります。
子猫の耳が黒い耳垢でいっぱいです。これは確実に耳ダニですか?
片方の耳を3回も治療したのですが、すぐに再発します。何が原因でしょうか?
耳の感染症で猫が難聴になることはありますか?
耳ダニは危険な病気ですか?それとも単に痒いだけですか?
受診すべきタイミング
頭の傾き、旋回、ふらつき、眼球の揺れ(眼振)、片側のまぶたの下垂と瞳孔の縮小、顔面の麻痺、あるいは突然の激しい片側性の頭振りが見られる場合は、当日中に獣医師に連絡してください。
異臭、耳だれ、黒くカサカサした耳垢、赤み、触ったときの痛み、持続的な頭振り、または耳の付け根の周囲にかさぶたがある場合は、今週中に受診予約を取ってください。
耳介の腫れ、耳の入り口に見える塊、または治療後に何度も再発する耳のトラブルについては、速やかに予約を取ってください。

耳が左右対称にまっすぐ保たれ、頭を振ることもなく、臭いもしない状態。これが治療のゴールです。この状態を確認するために、必ず再診を受けてください。
猫が元気そうに見えても、必ず再診を受けてください。耳の目に見える部分は、奥深くの部分よりも先に改善します。治療を途中でやめてしまうことが、猫の耳の病気が慢性化する最大の原因の一つです。

耳のチェックと同時に、首回りや耳の後ろの被毛も確認しましょう。耳道内に異常が現れる前に、引っ掻き傷などのダメージが先に見つかることがよくあります。
ハイライトとメモ
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。