フォン・ヴィレブランド病:犬の遺伝性出血性疾患の病態、診断、治療
von Willebrand disease
別称: vWD, von Willebrand syndrome, vWS
von Willebrand disease
別称: vWD, von Willebrand syndrome, vWS
ポイント
フォン・ヴィレブランド病は、止血に不可欠なタンパク質(フォン・ヴィレブランド因子)の欠乏や機能不全によって引き起こされる、犬で最も一般的な遺伝性出血性疾患です。無症状のことも多いですが、手術や外傷、換歯期に命に関わる異常出血のリスクがあります。本病の診断、治療、管理方法について解説します。

要約。 フォン・ヴィレブランド病は、血液凝固能を低下させる遺伝性の出血性疾患であり、手術、外傷、あるいは換歯期(歯の生え変わり)に重度の異常出血を引き起こすリスクを高めます。

ドーベルマン・ピンシャーは、遺伝的にフォン・ヴィレブランド病の好発犬種です。
フォン・ヴィレブランド病(vWD)を理解するには、健康な体がどのようにして出血を止めるかを知ることが役立つ。血管が損傷すると、体は「止血」と呼ばれる複雑なプロセスを開始する。その最初のステップである「一次止血」では、血液中を循環する微細で特殊な細胞断片である血小板が主役となる。これらの血小板は速やかに損傷部位に集まり、損傷した血管壁に付着し、互いに凝集して一時的な栓(血小板血栓)を形成しなければならない。
しかし、血小板は単独で血管壁に付着することはできない。血小板を露出した組織に結合させるためには、分子レベルの「接着剤」が必要となる。この接着剤の役割を果たすのが、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)と呼ばれる巨大なタンパク質である。フォン・ヴィレブランド病に罹患した動物では、この極めて重要なタンパク質が欠乏しているか、あるいは構造的に異常をきたしている。獣医内科学の代表的な文献では、以下のように説明されている。
「vWF分子はコイル状に巻いた状態で循環しており、血管内皮の損傷部位で巻きがほどけ、内皮下組織に結合した後に血小板受容体と結合することで、血小板を損傷部位へと引き寄せます。その結果、vWDは通常、一次止血不全(点状出血、斑状出血、粘膜出血など)を特徴とします。しかし、vWDに罹患した多くの犬は自発的な出血は示さず、過剰な出血を起こすにとどまります」
— Veterinary Internal Medicine, p. 1289
機能的なvWFが存在しないと、血小板を効果的に引き寄せることができない。そのため一時的な栓が形成されず、持続的で制御困難な出血につながる。獣医学では、タンパク質欠損の性質に基づいて、vWDを以下の3つの病型に分類している。
vWDは犬で最も一般的な遺伝性出血性疾患として広く知られているが、稀に猫にも発生することがある。猫での発生例は極めて稀であるため、猫における診断および治療の指針の多くは、確立された犬のプロトコルから推測して適用されている。
フォン・ヴィレブランド病は遺伝性の疾患である。これは、フォン・ヴィレブランド因子タンパク質の産生を担う遺伝子の変異によって引き起こされる。先天的な欠陥であるため、動物は生まれながらにしてこの病気を抱えており、生涯にわたって持続する。
遺伝形式は、犬種や具体的なvWDの病型によって異なる。多くの一般的な犬種では、不完全浸透を伴う常染色体優性遺伝(顕性遺伝)として遺伝する。不完全浸透とは、変異遺伝子を持つすべての犬が同じ重症度の症状を示すわけではないことを意味する。vWFレベルが非常に低く重度の出血を起こす犬もいれば、同じ変異を持ちながらもほぼ正常な凝固能力を維持している犬もいる。他の犬種では、常染色体劣性遺伝(潜性遺伝)として遺伝するため、子犬が発症するには両親のそれぞれから変異遺伝子を1つずつ、計2つ受け継ぐ必要がある。劣性遺伝の形式は、通常、より重篤な2型または3型のvWDを引き起こす。
獣医救急集中治療の教科書には以下のように記載されている。
「遺伝形式は、I型では常染色体優性または劣性ですが、II型およびIII型では常染色体劣性です。性別による好発傾向は認められていません。vWDに罹患した動物は、一般的に粘膜出血を示します…」
— Small Animal Critical Care Medicine, p. 636
性別による好発傾向はないため、オスとメスで発生率は等しい。
フォン・ヴィレブランド病の動物の多くは、外見上の異常を示さない。飼い主が凝固異常を疑うことなく、何年も元気に走り回り、遊び、生活を送ることも少なくない。問題が最初に発覚するのは、避妊・去勢手術や抜歯などの日常的な外科処置の際であり、異常な出血が続き、正常な血栓が形成されないことで気付かれる。臨床症状が現れる場合、深部組織の出血や関節の腫れよりも、体の粘膜からの出血(粘膜出血)として現れるのが一般的である。
一般的な症状
時折見られる症状
稀に見られる症状

換歯期の歯肉出血は、フォン・ヴィレブランド病の初期症状である可能性があります。
フォン・ヴィレブランド病の診断には、系統的かつ段階的なアプローチが必要である。vWDの症状は他の出血性疾患と類似しているため、診断を確定する前に他の潜在的な原因を除外しなければならない。診断プロセスは通常、身体検査と、犬種および家族歴の確認から始まる。出血性疾患が疑われる場合、獣医師は以下の検査を推奨する。
血小板数測定: これは常に最初のステップとなる。機能的な血小板の欠陥を調査する前に、血小板減少症(血小板数の減少)を除外しなければならない。救急集中治療の文献には以下のように述べられている。
「vWDの好発犬種における典型的な身体検査所見に基づき、臨床獣医師は手動および自動による血小板数測定を行います。その後の凝固検査を進める前に、血小板減少症を除外しなければなりません」
— Small Animal Critical Care Medicine, p. 637
血小板数が正常であるにもかかわらず、動物が異常な出血を示す場合、獣医師は機能検査へと進む。
頬粘膜出血時間(BMBT): これは、動物の血小板とvWFが相互作用して実際に血栓を形成する能力を測定する、実用的な院内検査である。獣医師は犬の上唇を優しくめくり、スプリング式の器具を用いて唇の内側の粘膜に標準化された微小な切開を加える。その後、出血が完全に止まるまでの時間を測定する。BMBTの延長は一次止血不全を示唆するが、これはvWD特異的なものではなく、また結果が正常であっても本病を完全に除外することはできない。
PFA-100検査: これは、高リスク犬種において術前に用いられる高度な自動スクリーニングツールである。PFA-100システムは、微細な開口部を通過する高せん断血流をシミュレートし、血小板血栓が開口部を閉塞するまでの時間を測定する。この検査は、手術前に血小板機能不全やvWDを検出する感度が非常に高い。
vWF抗原量測定(vWF:Ag): フォン・ヴィレブランド病を確定診断するためのゴールドスタンダードとなる検査である。採取された血液サンプルは、専門の獣医凝固検査ラボに送られる。ラボでは、血漿中のフォン・ヴィレブランド因子抗原の正確な濃度を測定する。結果は、正常な犬のプール血漿と比較したパーセンテージ(%)で報告される。50%未満であればフォン・ヴィレブランド病と診断され、35%未満の動物は臨床的な出血リスクが非常に高いとされる。
遺伝子検査: 特定の犬種に対してはDNA検査が利用可能である。これらの検査により、その犬種におけるvWDの原因となる特定の遺伝子変異について、クリア(正常)、キャリア(保因者)、またはアフェクテッド(罹患者)であるかを特定できる。遺伝子検査は繁殖犬に強く推奨され、子犬の時期を含め、あらゆる年齢で実施可能である。

フォン・ヴィレブランド因子の測定には、専門的なラボ検査が必要です。
遺伝的欠陥を根本的に修復することはできないため、フォン・ヴィレブランド病に対する永久的な治療法(完治)は存在しない。しかし、特に外科手術の計画時や急性出血エピソードの管理において、本病は非常に効果的にコントロールすることが可能である。
デスモプレシンは合成ホルモン製剤であり、バソプレシンのアナログ(類似体)である。これは1型vWDの管理に用いられる主要な内科的治療薬である。投与(通常は皮下注射または経鼻投与)されると、デスモプレシンは血管を裏打ちする細胞(血管内皮細胞)を刺激し、貯蔵されているフォン・ヴィレブランド因子を血液中に放出させる。これにより、循環血中のvWFレベルが一時的に上昇し、数時間にわたって凝固機能が改善する。獣医師は、予定されている手術の約30分前にデスモプレシンを投与し、術中の過剰な出血リスクを最小限に抑える。ただし、デスモプレシンはvWFの貯蔵がある動物(主に1型)にのみ有効である。2型や3型の動物は機能的なタンパク質の貯蔵を欠いているため、一般的に効果は期待できない。
重症型(2型または3型)の動物、あるいは活動性のある命に関わる出血を起こしているすべてのvWD罹患動物において、輸血療法は極めて重要な選択肢となる。
vWDの動物を管理する上では、血小板機能を阻害する薬剤を厳格に避ける必要がある。獣医師から具体的な指示がない限り、アスピリン、カルプロフェンやメロキシカムなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、あるいは特定の抗生物質(高用量のペニシリン系など)を絶対に与えてはならない。これらの薬剤は、すでに低下している凝固システムをさらに悪化させ、重篤な出血を誘発する危険性がある。
フォン・ヴィレブランド病の動物の長期的な見通しは、罹患している具体的な遺伝的病型と、その管理状態に大きく依存する。
フォン・ヴィレブランド病は遺伝性疾患であるため、生活習慣の改善、ワクチン、あるいは食事によって予防することはできない。本病を防ぐ唯一の方法は、責任ある繁殖管理を行うことである。
フォン・ヴィレブランド病の好発犬種を飼育している場合、あるいはすでに本病と診断されている場合は、出血の兆候がないか注意深く観察する必要がある。以下の症状に気付いた場合は、速やかに獣医師に連絡すること。
緊急の危険信号
重篤な内出血や急性失血を示す以下の症状が認められる場合は、直ちに救急獣医療を受診すること。
フォン・ヴィレブランド病は50種以上の犬種で報告されているが、特定の犬種では遺伝的リスクが著しく高い。遺伝形式や病気の重症度は犬種によって異なる。
治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
フォン・ヴィレブランド病は、止血に不可欠なタンパク質(フォン・ヴィレブランド因子)の欠乏や機能不全によって引き起こされる、犬で最も一般的な遺伝性出血性疾患です。無症状のことも多いですが、手術や外傷、換歯期に命に関わる異常出血のリスクがあります。本病の診断、治療、管理方法について解説します。
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治療はペットの状態に応じて獣医師が処方する必要があります。特定の薬物用量は意図的にここに記載していません。
この記事は一般的な健康教育を目的としており、専門的な獣医学的アドバイスの代わりにはなりません。ペットが調子悪い場合は、獣医師にご相談ください。